研究実績の概要 |
本研究は、表皮幹細胞の発生機序における外胚葉性間葉系幹細胞の役割解明を進めている。これまで当該研究室では、遺伝性水疱性皮膚難病である表皮水疱症の剥離表皮再生機序に外胚葉性間葉系幹細胞が寄与することを見出してきた(Tamai et al., 2012, PNAS)。しかし外胚葉性間葉系幹細胞の正常表皮の発生機序への関与は未だ不明な点が多いのが現状だった。 外胚葉性間葉系幹細胞は、発生のごく初期の頭部顔面領域より生じることが報告されている(Weston JA et al., 2003, Developmental Dynamics)。そこで本研究では、外胚葉性間葉系細胞由来の表皮(以下、外胚葉性間葉系表皮)発生の役割解明を目的とし、これまで外胚葉性間葉系細胞マーカーProtein zero (P0)陽性細胞の系譜追跡 マウス(P0-Cre: ROSA tdTomato:PDGFRa-H2BGFPKI)や、間葉系細胞特異マーカーPDGFRα陽性細胞の系譜追跡マウス(PDGFRa- Cre:ROSA tdTomato:PDGFRa-H2BGFPKI)を用いた外胚葉性間葉系譜細胞の追跡及びその生理特徴解析を実施した。蛍光免疫染色及びフローサイトメトリー解析による外胚葉性間葉系表皮の追跡や、単一細胞RNA/ATACシークエンス解析により、生理環境下における外胚葉性間葉系表皮の特徴が明らかになってきた。 本研究では、外胚葉性間葉系表皮の発生過程機序を分子・細胞レベルで明らかにすることで、根本的な治療法がない表皮水疱症における剥離表皮再生に、なぜ外胚葉性間葉系幹細胞が寄与しうるのかという臨床的問いに対する答えを見出す。最終的に本研究成果を基盤の一部として、表皮水疱症治療法開発に向けた社会実装に貢献することを目標とする。
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今後の研究の推進方策 |
外胚葉性間葉系表皮細胞のさらに詳細な特徴を見るべく、PDGFRa- Cre:ROSA tdTomato:PDGFRa-H2BGFPKI新生仔頭部表皮/真皮組織を用いた単一細胞RNA/ATACシークエンス解析を行った。DEG解析より外胚葉性間葉系表皮細胞が大半を占めるクラスターの候補マーカー遺伝子Thy1を得た。近年Thy1をマウス表皮中のスローサイクリング幹細胞集団マーカーとして報告が出たことから(Elle Koren et al., 2022, Nature communications)、マウス表皮の生涯に渡る恒常性維持に、外胚葉性間葉系細胞が関与することが示唆された。Thy1を指標の一つに、外胚葉性間葉系表皮の幹細胞の生理機能解析を進めている。外胚葉性間葉系表皮と非外胚葉性間葉系表皮(従来知られる原始外胚葉由来表皮細胞)の両者の生理的特徴比較を通じて、外胚葉性間葉系表皮がなぜ加齢に伴い表皮の大部分を占めるのかを明らかにしていく。 加えて単一細胞ATACシークエンス解析より、外胚葉性間葉系表皮細胞が大部分を占有する特徴的なクラスターをUMAP上に見出し、現在、モチーフ解析及びGO解析を進めている。これらを通じて、トランスクリプトーム及びエピゲノムレベルでの外胚葉性間葉系表皮細胞を詳細に見ていく。
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