研究課題
ダイヤモンドカプセル開発研究に関して、成膜パラメータの最適化を見据え、ダイヤモンド成長の基板温度依存性を実験的に検証した。まず基板温度のみを独立に制御できる実験系を構築し、基板温度を1000度程変化させた成膜実験を実施した。この際、基板温度は、熱電対を取り付けた擬似サンプルの測定によって事前に評価した。実験結果からダイヤモンド成膜に必要な基板温度には閾値が存在し、基板温度の上昇と共に成長速度が増加するという、妥当な結果が得られた。現在はこれらの実験サンプルの特性評価を実施しており、基板温度が結晶性や非ダイヤモンド成分含有量に与える影響に関する知見を得られる予定である。レーザープラズマ相互作用の研究については、前年度に得ていた実験データにおいて、水素を含むプラズマにおいて、誘導ラマン散乱(Stimulated Raman Scattering: SRS)、二電子崩壊不安定性(Two Plasmon Decay: TPD)、そして高速電子の発生量が顕著に増加することを説明するために、輻射流体シミュレーションを実施し、水素添加によるプラズマパラメータの変化を解析した。結果として、水素の有無によって電子温度やプラズマスケール長等の一般的にSRSおよびTPDの閾値に影響を与えるパラメータについては、大きな差異は見られなかった。一方で水素イオンの添加によりイオン音波減衰率が顕著に増加することから、SRSやTPDによって発生した電子プラズマ波がイオン音波を媒介して崩壊するラングミュア崩壊不安定性(Langmuir Decay Instability: LDI)等の二次的な電子プラズマ波の崩壊がSRSとTPDの閾値を決定したことが分かった。これは、SRSとTPDをプラズマ中の水素含有率によって制御できることを示しており、レーザー核融合のターゲットデザインにおいて重要な知見であるといえる。
2: おおむね順調に進展している
ダイヤモンドカプセル開発に関して、当初の予定通り、合成パラメータの最適化を進めており、実験データの蓄積も順調に進んでいるため。またレーザープラズマ相互作用に関する実験から、ターゲット材の水素含有率により、SRS、TPD、そして高速電子を制御できることがわかり、そのメカニズムについても明らかになったため。
合成パラメータの最適化については引き続き実験を進める。また得られている実験サンプルの特性評価を進めることで、ダイヤモンド膜質の水素含有率および表面平滑性に対する合成パラメータ依存性を得ることを計画している。レーザープラズマ相互作用の研究については、ターゲット材の水素含有率の効果が現れるプラズマ条件を明らかにすることを計画している。プラズマパラメータによっては、二次的な電子プラズマ波の崩壊機構(水素の効果)よりもランダウ減衰等の他の崩壊機構が顕著になることが予想され、異なる条件で支配的なパラメータを明らかにすることが重要である。
本年度は、米国へのインターンシップに参加しおよそ5ヶ月間滞在したことから、他の海外の学会に参加することができなく、旅費が当初の予定よりも少なくなった。物品費に関しては当初レーザーの購入を想定していたが、実験の進展の中で、必ずしもレーザーの購入が必要でない可能性が浮上したため、本年度の購入は保留したため。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Physical Review Research
巻: 5 ページ: 1-9
10.1103/PhysRevResearch.5.033051