研究課題/領域番号 |
21J00294
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
竹田 宏典 神戸大学, 工学研究科, 特別研究員(PD) (30931787)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
キーワード | バイオメカニクス / 生体力学 / 細胞膜 / 細胞移動 / 形態形成 / 連続体力学 / 流体ー構造連成解析 / アイソジオメトリック解析 |
研究実績の概要 |
本研究は,細胞移動にともなう組織の流動的な性質を表現する数理モデルを構築することを目的とし,微視的な細胞の変形と,巨視的な組織の変形それぞれの空間スケールにおける数理モデルを構築する.細胞2022年度は,細胞が移動する際に観察される細胞膜の突出形状に着目し,昨年度に構築したアイソジオメトリック解析手法を用いて,膜面積の拡大にともなう細胞膜の突出の数値シミュレーションを行った.その結果,膜面積の拡大の空間分布に応じて,実際の細胞膜上で観察されるようなStubby形状やFilopodia形状,Mushroom形状といった突出パターンが形成されることを明らかにした. 細胞膜の変形には,細胞膜が細胞内外の環境から受ける影響を考慮する必要がある.そこで,細胞膜が粘性抵抗を受ける状況を想定し,粘性流体中での薄膜の変形の数値計算手法を新たに開発した.粘性流体中での薄膜の変形を解析するため,アイソジオメトリック解析手法と境界積分法を組み合わせた新たな解析手法を構築した.本手法は,薄膜と粘性流体の流体―構造連成問題を解くための汎用性の高い手法である.本手法を用いて,流体―構造連成問題の代表例である単純せん断流れ中のカプセルの変形の解析を行った.ここで,カプセル表面に生じるシワに着目し,従来の研究では困難であったシワ形状の詳細を調べて新たな知見を得ている.また,粘性流体中での面拡大にともなう細胞膜の変形に本手法を適用し,解析を進めている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,細胞移動と組織流動を関連付ける連続体力学理論を構築することを目的として,多数の細胞が連結した計算力学的なアプローチによる検証と,巨視的な組織の性質を表す連続体力学モデルの構築を行う.2021年度には,生体組織を粘弾性体とみなしたモデルを構築し,組織の体積的な成長から生じる座屈現象を解析可能な数値計算手法を開発した.さらに,2022年度は,細胞単体の変形を扱う計算モデルの構築に着手した.細胞内外の粘性抵抗を考慮した流体―構造連成解析手法を開発し,その適用例としてNeo-Hookeanモデルに基づく超弾性体カプセルの単純せん断流れ中の変形を解析した.細胞膜の力学的な性質を表す構成則として提案されているHelfrichモデルやSkalakモデルを本手法に適用することにより,細胞の変形を表現する計算モデルを構築することが可能である.以上のように,現在までに,巨視的な組織変形と微視的な細胞変形をそれぞれ考慮した計算モデルを開発している.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,細胞移動から生じる組織流動の連続体力学モデルを構築する. 2022年度では,微視的な細胞の変形の計算モデルを構築した.このモデルを用いて,多数の細胞が互いに接着した際の組織としての振る舞いを明らかにする.細胞接着の数理モデル化を行い,その接着様式の変化に対して,多細胞組織の振る舞いがどのように変化するのかを数値シミュレーションを通じて検証する.さらに,この微視的な視点からのアプローチと並行して,巨視的な組織の挙動を表現するための連続体力学に基づくモデリングを行う.2021年度には,巨視的な組織の性質を粘弾性として捉え,粘弾性体の計算モデルを構築している.組織挙動を表わす連続体力学モデルに基づく組織変形のシミュレーションと,多細胞が連結した多細胞組織の数値シミュレーションを比較することにより,巨視的なモデルの妥当性を検証し,細胞接着の影響を考慮した多細胞組織の振る舞いを表現する連続体力学モデルを構築する. さらに,脳組織のしわ形成や,腸の柔毛形成などの生体組織の形態形成において,組織の体積的な成長によって生じる座屈現象に着目し,細胞同士の接着様式が組織変形に与える影響を明らかにする.細胞移動によって生じる組織成長の空間分布や,組織の流動的な性質を考慮した計算モデルを構築し,細胞接着と細胞移動が,生体組織のしわ形成に及ぼす影響を明らかにする.
|