研究課題
本研究では、流体中における細胞膜を模擬した薄膜の変形シミュレーションのための数理モデルと数値計算手法の開発に取り組んだ。本年度は、数値計算の精度を向上させるため、曲げ変形に関する弱形式での定式化や、計算メッシュの再分割などを行い、昨年度までに構築した数理モデルと数値計算手法を改良した。そして、細胞の内外に存在する細胞質や細胞外基質の力学的特性や挙動が細胞膜の変形に与える影響を明らかにするため、新たに、弾性膜と周囲組織の相互作用を考慮した数値シミュレーション手法を構築した。弾性膜の変形はKirchhoff-Love shell理論に基づいて記述し、周囲組織の挙動をニュートン流体のストークス流れとして境界積分法に基づいて記述した。そして、B-spline関数による形状表現と境界要素法を組み合わせたアイソジオメトリック境界要素法を用いて、弾性膜の変形と粘性流体との相互作用を考慮した流体―構造連成解析手法を構築した。本手法を流体―構造連成問題の代表例である、せん断流れ中でのカプセル表面に生じるシワ形成へ適用し、本手法の有用性を示した(国際学術雑誌Journal of Fluids and Structuresに掲載)。さらに、細胞移動において重要な細胞突起形成のメカニズムを明らかにするため、細胞膜の流動に伴う局所的な膜面積の拡大によって生じる突起形成のシミュレーションを行った。曲げ変形と面内変形に対する弾性膜の力学特性を変化させてシミュレーションを行い、力のつり合い状態における膜形状を明らかにした。また、細胞膜成分が大域的、あるいは局所的に供給される場合について、それぞれ数理モデル化し、シミュレーションを行うことにより、膜面積の拡大の空間分布が形成された突起の形状に与える影響を明らかにした。
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Journal of Fluids and Structures
巻: 124 ページ: 104022~104022
10.1016/j.jfluidstructs.2023.104022