間脳の視床下部内側基底部(MBH)は、全身のエネルギー状態を感知し、摂食行動や代謝機能を調節する中枢器官である。健常なマウスは、活動期である暗期を中心に摂餌し、非活動期である明期はあまり摂餌しないが、長鎖飽和脂肪酸に富む高脂肪食(HFD)を摂取したマウスでは、MBH領域内の食欲調節に関わる神経細胞の集合核である視床下部弓状核(ARC)において、脳内免疫細胞ミクログリアの炎症応答が惹起し、昼夜問わず摂餌行動を起こすようになる。昨年度までに、クロダイズ種皮抽出物(BE)に含まれる成分のうち、シアニジン3-グルコシド(C3G)が、HFD摂取によるARCの炎症を抑制し、食リズムの乱れを是正することが判った。さらにその主要な生体代謝物であるプロトカテク酸(PCA)が、長鎖飽和脂肪酸(パルミチン酸)誘導性のミクログリア炎症応答を抑制することまで判明したが、その詳細な作用メカニズムは不明であった。本年度の研究を通して、パルミチン酸はミクログリア細胞のJNK経路とNF-κB経路の活性化を介して、炎症を誘導していることが示唆された。そしてPCAの抗炎症効果には、NF-κB経路の抑制効果が関わっていることが示唆された。そのメカニズムは、転写因子NF-κBを細胞質に留める役割を果たすIκBαのユビキチン化-プロテアソーム分解を抑制することで、NF-κBの核内移行を抑制し、炎症性サイトカインの遺伝子発現を抑制していることがわかった。さらにPCAは、in vivo (マウスを用いた実験) においても、HFD誘導性の摂食リズムの変化と視床下部炎症を改善した。本研究結果は、ポリフェノールが中枢神経系を媒介して多様な生理機能を発揮する潜在的なメカニズムを解明するための、新たな証拠と知見を提供するものである。
|