研究課題/領域番号 |
21J40097
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
竹内 真純 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 高齢期 / 女性 / 就労経験 / 年齢差別 |
研究実績の概要 |
2021年度に実施したオンライン調査(60~74歳の、最長職がフルタイム就労だった女性・パートタイム就労だった女性・専業主婦だった女性・男性の各200人、計800人が対象)の分析を行った。第1に、就労形態による主観的well-beingの違いを比較したところ、フルタイム就労だった女性は主婦やパート就労だった女性と比べてポジティブ感情が多く、主観年齢が若く、生活満足度が高いことが示された。この結果は2022年度の老年社会科学会にて発表した。 第2に、性別と就労経験によるインターネットの使用方法の違いを検討した。その結果、男性は女性よりコミュニケーション目的以外でのインターネットの利用が多いこと、フルタイム就労だった女性は、主婦やパート就労だった女性より、インターネットの発展的利用(ネットを利用した自己啓発やネットバンキングなどの手続き)が多いことが示された。この結果は2022年度の日本社会心理学会、および、日本・韓国・香港による国際シンポジウムにて発表した。 第3に、性別と就労経験による年齢差別経験の違いを検討し、フルタイム就労女性はそうでない女性より年齢差別を受けた経験が多いこと、男性と比べて若いうちから年齢差別を受けていること、年齢差別的な職場風土が精神的健康に与える影響が強いことを明らかにした。この結果は、2023年度のAsian Association of Social PsychologyおよびIAGG Asis/Oceania Regional Congressにて発表予定である。 さらに、30年以上フルタイム就労をしていた女性を対象としたインタビュー調査を行った。調査は、予備調査3名、本調査10名を対象とした。主な調査項目は、家族・地域・友人との社会関係、定年退職による社会関係の変化、就労と介護の両立についてだった。このデータは2023年度に分析予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、第1に、2021年度に行ったオンライン調査の分析を進めること、第2に、フルタイム就労をしていた高齢女性を対象としたインタビュー調査を行うこと、第3に、中年期の就労経験が高齢期に与える影響を検討する量的調査を実施することを目的とした。研究の結果、第1、第2の目的については計画通りに研究を遂行できた。第3の目的については2023年度に実施する予定である。 第1の目的であるオンライン調査については、当初の計画以上に分析を発展させることができた。具体的には、フルタイム就労をしていた女性は高齢期の主観的well-beingが高いこと、専業主婦やパート就労だった女性に比べてインターネットの利用に優れていること、専業主婦やパート就労だった女性に比べて年齢差別を受けた経験が多く、男性よりも若い時期から差別を受けること、年齢差別的な職場風土が精神的健康に与える悪影響が、パートタイム就労の女性に比べて大きいこと、等を明らかにした。これらは2つの国内学会および国際シンポジウムにて発表を行い、特に国際シンポジウムでは好評を得た。また、2023年度に実施される2つの国際学会での発表の採択に繋げることができた。 第2の目的であるインタビュー調査については、30年以上フルタイム就労をしていた60歳以上の女性10人に約1時間のインタビューをオンライン上にて行い、中年期の就労状況と社会関係、現在の社会関係、フルタイム就労と介護の両立における困難や工夫などについて質問した。インタビューデータについては現在分析には至っていないが、当事者と対話し生の声を聞いたことで、多くの発見があった。 これら2つの研究が予想以上に進展し、時間および費用がかかったため、第3の目的については実行に至らなかった。2023年度にインタビュー調査を質的分析した結果をふまえて、量的調査を実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
第1に、本年度に行ったインタビュー調査の質的分析を行う。男性は中年期に仕事中心の生活のため定年退職後に孤立化しやすいことが先行研究で指摘されるが、男性同様に就労時間が長いフルタイム就労女性ではそのような傾向があるのかを検討する。また、女性が主な負担を負うことの多い介護について、フルタイム就労と介護の両立における困難や両立のための工夫について分析する。 第2に、東京都健康長寿医療センター研究所が2021年に実施した「全国高齢者パネル調査」を分析し、フルタイム就労をしていた女性とその他の高齢者で、健康状態、主観的幸福感、社会関係、経済状態を比較する。本申請研究では、2021年度に公開データを用いて同様の分析を行ったが、使用可能なデータが古かったため発表に至らなかった。2023年度は、2021年に実施された最新の調査データを使用できる見込みであるため、新しいデータにて再度分析を行う。 第3に、これらの分析結果をふまえ、中年期の就労が高齢期に与える影響、および、年齢差別を受けた経験について検討するため、60~79歳を対象とした郵送調査を行う。本申請研究におけるこれまでのデータ分析では、フルタイム就労をしていた女性は、主観的幸福感が高くインターネットの利用に優れる一方で、男性やその他の女性より年齢差別を受けた経験が多いことが明らかになった。しかし、これらの結果は性別・就労経験別に層別化されたサンプルを用いた調査で得られたため、社会全体における年齢差別の経験者の割合等はわからなかった。2023年度は、より代表性の高いサンプルによる調査を行い、中寝期の就労状況と高齢期のとの関係、中高齢期に年齢差別を受けた経験がある人の割合、年齢・性別・就労経験による違い等を明らかにしたい。
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