研究課題/領域番号 |
22J10017
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
柚 佳祐 神戸大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | タンパク質 / アミロイド線維 / シーディング / クロスシーディング / 構造伝播 |
研究実績の概要 |
アミロイド線維はタンパク質の異常凝集体の一種であり、様々な疾患の発症に関わる。アミロイド線維の基本構造はクロスβ構造であるが、微視的には構造多様性が存在し、構造に依存して異なる病態を発症すると考えられている。タンパク質溶液にアミロイド線維断片を加えると、速やかな線維伸長が生じる(シーディング)ことが知られており、疾患の伝播や感染に関わることが指摘されている。同種のタンパク質間で生じるセルフシーディングでは線維の構造は複製されることが報告されている。一方で異種のタンパク質種間で生じるクロスシーディングについての詳細は明らかでない。これまでの研究で、ヒト及びウシ由来インスリンのクロスシーディングでは多段階の構造変化が生じ、強い細胞毒性を示す新種の構造が形成することを見出している。そこで本研究では、クロスシーディングの伝播機構に着目し、多様な線維構造形成メカニズムを解明する。 クロスシーディングの解析を行うための準備として、大腸菌を用いた発現精製系を用いてトランスサイレチンやαシヌクレインなどのタンパク質を調製した。各々のタンパク質について精製方法の改善や試料調製時の溶解状態の条件検討を行い、クロスシーディングのシードとなるアミロイド線維の構造を精密に制御することを試みた。特にトランスサイレチン断片に焦点を当て、中性条件下で再現性良く典型的なアミロイド線維を生成できる条件を探索した。また、得られたトランスサイレチン断片の線維をシードとして、野生型および変異体トランスサイレチンに対してクロスシーディングを試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トランスサイレチン断片について、精製方法の改善および反応条件の検討を行い、典型的なアミロイド線維を再現性良く生成できる系を確立した。さらに、得られたトランスサイレチン断片の線維をシードとして、野生型および変異体トランスサイレチンに対してのクロスシーディングを実施するところまで進展した。中性条件下で静置だけでなく振盪、超音波照射などによりクロスシーディングを試みているが、今のところアミロイド線維の生成は観察されていない。しかし、トランスサイレチンは中性ではホモ四量体を形成しており構造的に非常に安定であるので、その四量体を不安定化することができればクロスシーディングが進行することが期待される。生体内におけるトランスサイレチンのアミロイド線維形成機構の詳細は現在まで明らかでないが、クロスシーディングがその機構解明の糸口となるだけでなく、様々なアミロイド線維構造が生成するプロセスに関する知見も得られる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はトランスサイレチンのクロスシーディングに重点を置きつつ、その他のαシヌクレインやアミロイドβペプチドについても解析を進める。野生型タンパク質だけでなく、疾患に関わる変異体を用いたクロスシーディングは、疾患の発症メカニズムを解明する上で重要な知見になるので検証する。クロスシーディングによってアミロイド線維の伝播が観察された場合は、そのタンパク質分子集合動態を解析するとともに、形成する線維構造の複製および変化に着目し、クロスシーディングにおけるアミロイド線維構造の保存性について解析する。これらの結果を総合し、クロスシーディングにおける構造伝播メカニズムを明らかにする。また、最近アミロイド線維形成を促進する反応場として注目を集めている液-液相分離とクロスシーディングの関係は未解明であり、その知見は生理学的に重要であると考えられるので、次年度は液-液相分離がクロスシーディングに与える影響についても調査する。
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