本研究の目的は国立科学博物館の展示室「親と子のたんけんひろばコンパス(以下,コンパス)」を事例として科学系博物館における幼児を対象とした学習支援を実現するための理念,展示,運営の関係性を明らかにすることであった。 研究期間全体を通じて,コンパス関係者への面接調査の結果と面接調査の結果を裏付ける現地調査の結果から,コンパスの理念がどのように展示に反映されたのかを明らかにするとともに,コンパスの運営スタッフがコンパスの理念をどのように捉えてコンパスを運営していたのかを明らかにした。事例研究法に基づく分析の結果,コンパスの開発者が「博物館での親子のコミュニケーション」という理念を具現化するためにカハクのマドの開発において「幼児にとって魅力的な標本の選択」,「子どもと大人の目線の違いを生かした標本配置」,「短い会話文の展示ラベルの設置」の3つの展示手法を開発したことが明らかになった。 2023年度は,コンパス関係者への面接調査の結果の結果から,コンパスの運営スタッフがコンパスの理念をどのように捉えてコンパスを運営していたのかを明らかにした。その結果,運営スタッフは,開発者が設定した理念を意識しながらコンパスを運営していたことが明らかになった。しかしながら,理念の捉え方や,3つの理念のそれぞれをどの程度意識しているのかについては,運営スタッフによって異なっていた。運営スタッフは,展示が理念を具現化する上での課題を認識し,認識した課題を運営の中で改善しようと試みていたことが明らかになった。2023年度には,これまでの研究成果をもとに,コンパスの理念と展示・運営の関係について総合的に考察するとともに,本研究で得られた知見と他の先行研究との比較を行い,科学系博物館における幼児を対象とした展示室の学習支援を実現するための総合的な考察を行った。
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