ゲスト分子の取り込み可能なサイズの内部空間をもつケージ状分子を合成する戦略として,通常は合成の容易さから超分子法や金属配位が用いられることが多い。しかしながら可逆的な弱い相互作用を用いて構築するケージ状化合物は溶媒などの外部環境によっては安定性を保つことが難しい。 本研究では超分子的相互作用より強固である共有結合からなるケージ状分子の合成に挑戦した。広いπ共役系を有するお椀型分子のコラニュレンを鍵出発物質として対面型二量体にすることで,ボトムアップ的に球形ナノカーボンを短工程で構築し,分子設計自由度の高いケージ状分子を合成できた。本ケージ状分子をc-cageと名付けた。c-cageは修飾位置の違いによるラセミ体とメソ体が約1:1の混合物として得られた。本研究ではこれまでに,コラニュレンケージの合成法の確立,ラセミ体とメソ体の分離法の確立,単結晶エックス線構造解析による構造の確定,ラセミ体の光学分割,内包可能な分子の調査,内包分子に依存する物性の探索,キロプティカル特性の測定を行った。共有結合によって構築したケージ状化合物は化学的に安定であるため,内包分子の化学変換やケージそのものの誘導体化が期待できる。また,熱分析から高温でケージ分子が分解するまでゲスト分子はケージ中に保たれることがわかった。さらに,P体M体を光学分割したエナンチオピュアなc-cageの円偏光発光 (CPL) などのキロプティカル物性を検討した。有機物としては比較的大きな異方性因子g値が得られた。
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