研究課題/領域番号 |
21J23445
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
假谷 佳祐 鳥取大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | イネ / ファイトアレキシン / 種内多様性 |
研究実績の概要 |
植物は病原菌の感染に応答して、抗菌活性を有する化合物ファイトアレキシンを蓄積する。イネでは、20種類以上の化合物が報告されており、ほとんどがジテルペノイドである。これまでの研究で、ファイトアレキシンの蓄積量は品種ごとに大きく異なることを見出している。本研究では、イネが多様な化学防御システムをどのように獲得したのか、1) 新奇ファイトアレキシン生合成経路の獲得メカニズム、2) ファイトアレキシンを蓄積しない品種における化学防御機構、を明らかにすることを目的とした。 1) 新奇ファイトアレキシン:オリザラクトンの生合成遺伝子は、オリザラクトンを蓄積する品種に特有のSNPの探索と、F2集団の表現型・遺伝子型解析により探索した。候補領域の近傍の遺伝子の塩基配列は、オリザラクトンを蓄積する品種としない品種で大きく異なっていた。これを候補遺伝子とし、KSLXと名付けた。KSLXをベンサミアナタバコの葉で一過的に発現させ、その代謝物の構造解析を行ったところ、オリザラクトンの生合成にKSLXが関与することが示唆された。さらに、多数の栽培イネおよび野生イネについてKSLXの分布を調べた。KSLXは、AAゲノムグループのイネにおいて、2つの遺伝子が融合により獲得した可能性が示唆された。 2) ファイトアレキシンを蓄積しない品種: Jinguoyinに病原菌を感染させ、代謝物をLC-MSで分析した。メタボロミクス解析ソフトによる解析から、病原菌感染により誘導される化合物を5つ見出した。Jinguoyinの葉の抽出物を精製し、5つの化合物について単離・構造解析を行った。すべてジテルペノイドであり、2種は新奇、3種は既知だったがイネの病原菌感染葉からは初めて見出された。いずれの化合物も、病原菌に対して抗菌活性を示した。つまり、Jinguoyinのファイトアレキシンを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に行う予定だった、オリザラクトン生合成遺伝子の推定については、世界のイネコアコレクションを用いたSNP解析と、F2集団の解析により達成できた。また、候補遺伝子の酵素活性についても、異種発現により解析することができた。加えて、データベースに登録されている多数のNGSのリードデータを利用することで、イネにおけるKSLXの分布や、その遺伝子を獲得した過程についても検討した。解析から、イネがKSLXをいつごろ、どのように獲得したのか、その進化過程まで考察できた。 ファイトアレキシンを蓄積しない品種におけるファイトアレキシンの探索も、オリザラクトン生合成遺伝子の探索と並行して行った。Jinguoyinにおいて高濃度に蓄積した5つの化合物について構造を決定した。世界のイネコアコレクションにおいて5つの化合物の蓄積量を分析した結果、Jinguoyin以外にも多数の品種が単離したファイトアレキシンを蓄積することが分かった。つまり、Jinguoyinにおいても、他の多くの品種と同様にジテルペン生合成経路が活性化されていた。 このように、当初の計画に通りに進行していることから、研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も、1)新奇ファイトアレキシン生合成経路の獲得メカニズム、2) ファイトアレキシンを蓄積しない品種における化学防御機構、について次の方法で研究を行う計画である。 1) KSLXはオリザラクトンの生合成に関与する可能性が示唆された。さらなる証明として、イネの体内においてKSLXがその生合成に関わっているかを検討する。具体的には、オリザラクトンを蓄積する品種のKSLXをゲノム編集によりノックダウン、および、KSLXを持たない品種にKSLXを過剰発現させる。これらの変異体において前者では、オリザラクトンを蓄積しなくなり、後者では、オリザラクトンが検出されると予想される。変異体は現在作成中である。また、オリザラクトンを蓄積する野生型系統と、それから作出したKSLXノックダウン株に対し病原菌を感染させる。抵抗性を比較することで、オリザラクトンを蓄積する生物学的意義を明らかにする。 2) Jinguoyinから単離した化合物には、殺虫成分を示すものが含まれていた。既知のファイトアレキシンを蓄積しないような品種では、病原菌以外に対して活性を示す化合物を蓄積するような表現型を獲得した可能性が考えられた。あるいは、既知のファイトアレキシンと比較して、抗菌スペクトルが異なる可能性もある。次年度は、これらの可能性を検討するために、イネの各種病原菌や害虫に対する生理活性を幅広く検討する。 また、新たに発見した5つの化合物の生合成酵素はいまだ報告がない。複数のイネのコアコレクションを用いたGWAS解析やF2集団のQTL-seqにより、生合成酵素の探索も行う。
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