植物は病原菌の感染に応答して、抗菌性化合物ファイトアレキシンを蓄積する。イネからはファイトアレキシンとして20種類以上の化合物が報告されているが、その蓄積量は品種ごとに大きく異なる。本研究は、1)イネにおける新奇ファイトアレキシン生合成経路の獲得メカニズム、2)ファイトアレキシンを蓄積しない品種における化学防御機構、から、イネにおけるファイトアレキシンの多様化のメカニズムを明らかにすることをも目的とした。 1)昨年までの研究で、イネの品種特異的なファイトアレキシンであるオリザラクトンの生合成遺伝子KSLXを同定した。KSLXは、タンデムに位置するKSL8およびKSL9と同じ遺伝子座に座乗したため、これら2つの遺伝子の対立遺伝子と推定された。イネ属におけるKSLX、KSL8およびKSL9の有無と系統解析から、イネにおいてこの遺伝子座の多型が長期間維持されてきたことが示唆された。これらの結果をまとめ、論文として投稿した。 2)昨年までの研究で、ファイトアレキシンを蓄積しない品種Jinguoyinからイネの新奇ファイトアレキシンとしてアビエトリジン類を発見した。栽培イネにはアビエトリジン類を蓄積する品種と蓄積しない品種が混在した。蓄積量の違いをもたらす遺伝的要因を探索し、候補遺伝子を選抜した。候補遺伝子を異種発現させ、その酵素活性の解析からアビエトリジン類の生合成に関与することが示された。また、その酵素活性の発現に重要なアミノ酸変異を同定した。 これらの研究から、イネが多様なファイトアレキシンを生合成できる遺伝的要因や、その多様性が生じた要因の一端を明らかにできた。
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