研究課題/領域番号 |
21J22781
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
酒井 聖矢 岡山大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 超新星背景ニュートリノ / スーパーカミオカンデ / SK-Gd実験 / シミュレーション / 核子-原子核反応 |
研究実績の概要 |
超新星背景ニュートリノ(SRN)に対する感度を高めるため、スーパーカミオカンデ(SK)の検出器内にさらにガドリニウム(Gd)を導入し、質量濃度を0.011%から0.03%まで上げた。私はこのGd導入作業に主要メンバーとして参加し、現地の研究者や業者の方々と積極的に意見交換しながら円滑に作業を進めた。結果、前回とほぼ同じ作業時間で前回の約2倍のGd導入を達成できた。 また、大気ニュートリノシミュレーションで発生する中性子の個数が観測データよりも多いことが分かっていたが、その原因がニュートリノ-原子核反応なのか、その二次反応である核子-原子核反応なのかが分かっていなかった。そこで、核子-原子核反応モデルの違いによる発生中性子数の変化を調べた。結果、現在SKの検出器モンテカルロシミュレーション(MC)で使用中の核子-原子核反応モデルでは他のモデルと比べて発生中性子数が多いことが分かった。また、発生中性子数の少ない核子-原子核反応モデルを使ってもT2K実験の結果を再現できないことを示唆し、ニュートリノ-原子核反応モデルも見直す必要があることを指摘した。これらの結果および考察を国内外での会議やSK実験グループの全体会議で報告した。 さらに、SRN探索の主な背景事象である大気ニュートリノの中性カレント準弾性散乱反応において、現在SKのMCで使用中の核子-原子核反応モデルでは脱励起ガンマ線も多く発生することが分かり、より精密な物理モデルをMCに導入することの重要性を指摘した。これらの結果および考察を国内会議やSK実験グループの会議で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、大気ニュートリノのNCQE反応数(大気ニュートリノが原子核内の核子を弾き出し、原子核を励起させる反応の数)をより正確に見積もり、SK-Gd実験で超新星背景ニュートリノの世界初観測を実現することである。この目的を果たすため、RCNPで行われた中性子-酸素原子核反応による脱励起ガンマ線のエネルギー・生成断面積測定の結果を用いて新たな核子-原子核反応モデルを構築することを計画していた。しかし、そのデータ解析が難航しており、新たなモデルを構築できる段階に未だ至っていない。 そこで、大気ニュートリノシミュレーションを用いてGeant4に実装済みの核子-原子核反応モデルの違いによる脱励起ガンマ線や中性子の発生数の変化を調べた。結果、現在スーパーカミオカンデ(SK)の検出器モンテカルロシミュレーションで使用中の核子-原子核反応モデルだと他のモデルと比べて観測データの再現度が低くなることが分かった。そして、大気ニュートリノのNCQE反応数をより正確に見積もるためには、脱励起ガンマ線だけでなく、ニュートリノ-原子核反応や核子-原子核反応で発生する中性子の数・エネルギーについてもより詳細に理解する必要があることが分かった。 本研究により、SKだけでなく他の実験グループでもニュートリノ-原子核反応モデルや核子-原子核反応モデルを見直すことが期待される。また、これらの反応をより詳細に理解するための新たな実験を始める契機になることも期待され、本研究が素粒子実験に与える影響は大きいと思われる。 以上の理由から、本研究はおおむね順調に進展しているという評価を下した。
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今後の研究の推進方策 |
現在、SK-Gd実験では初となる大気ニュートリノを用いた中性カレント準弾性散乱(NCQE)反応断面積測定の解析を進めている。ガドリニウム(Gd)導入前の先行研究では機械学習を用いて中性子信号を同定していた。しかし、Gdが導入されたことによって機械学習を使わなくても中性子信号を高効率で同定することが可能となった。また、先行研究ではGEANT3ベースの検出器モンテカルロシミュレーション(MC)を解析に使用していたため、MCで使用できる核子-原子核反応モデルは1種類しかなかった。しかし、Geant4ベースのMCの開発およびその実用化に伴い、3種類の核子-原子核反応モデルを使っての比較が可能となった。これらを踏まえてNCQE反応断面積の算出および統計誤差・系統誤差の見積もりを行い、その結果および考察を国内会議やSK-Gd実験グループの全体会議、7月下旬から8月初旬にかけて名古屋で開催される国際会議で報告する。8月末から9月初旬にかけてオーストリアで開催される国際会議での報告も予定している。 そして、上記の結果および考察を学術論文にまとめる。その際、過去のNCQE反応断面積測定の結果や解析に使用したニュートリノ-原子核反応モデルおよび核子-原子核反応モデル、今後の展望についても言及する。過去のNCQE反応断面積測定の結果については、実際にその解析を行った方々と意見交換しながら執筆を進める。また原子核反応モデルについては、実際にそのモデル構築に携わった方々から知識を吸収しながら執筆を進める。
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