本研究の目的は自然界にみられる複雑な形状をもつ物体周りの流れを解析し、その形状の流体力学的な特徴や形成メカニズムについて考察することである。その具体的な対象として、トンボ翼や砂丘を設定している。 本年度は主に実験を行い、その結果を分析した。トンボ翼の研究では、急発進時における流れ構造を可視化し、得られた実験結果のデータ削減や本質的機構の抽出を目的にデータ解析(固有直交分解)を適用した。その結果、実験で得られたデータは、急発進時に生成される流れ構造と後方で周期的に放出される渦構造の2つの要素に分解されることを発見した。また、これまでの数値計算結果に対してもデータ解析を適用し、揚力生成と関連づけられるモードを取り出せる可能性が示唆された。砂丘の研究では、バルハン砂丘の発達過程と砂丘後方の流れ構造に着目し、流れの可視化実験を行なった。その結果、バルハン砂丘の発達過程において、砂丘後方のらせん渦構造が内巻きから外巻きへと遷移する可能性があることを発見した。そして、この実験結果に基づいた砂の輸送や砂丘の形成メカニズムについて、砂丘動力学の専門家と議論した。 そして、一見関連の薄いように見える砂丘とトンボ翼の関係性について、研究会やセミナーを通し、非線形科学の専門家らと議論した。特に、バルハン砂丘模型の後方で観察された外巻きのらせん渦は砂丘動力学の専門家の予想と異なる結果であったが、水平方向におけるバルハン砂丘の形状は後退翼と類似しており、生物飛翔の知識を持ってすれば、自然な結果であると判断できた。両者の知見が活かされた、新しい発見が得られたと考えている。 これらの結果については、研究期間全体を通じて査読付き論文3件、国際会議7件、国内会議20件の発表を行った。また、4件の報道があり、専門家および一般からの興味を引くことができた。
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