近年の瀬戸内海では,海洋生態系の基礎生産者である植物プランクトンの種組成の変化が報告されている。本研究課題では,近年顕著な貧栄養化に加え,日射量増加や透明度上昇によってもたらされる強光イベントの増加に着目し,栄養塩欠乏と強光に対する植物プランクトンの種ごとの生理的応答の違いを調査した。 前年度に,瀬戸内海での出現動態が変化している代表的な種,珪藻Skeletonema属,Chaetoceros属,ラフィド藻Chattonella属について,栄養塩制限及び強光下での種ごとの光合成応答の違いを調査し,光合成阻害の程度及び強光防御機構NPQの誘導に大きく差があることを確認した。この強光防御機構が,夏季の植物プランクトンの出現に影響していると考え,当該年度は,珪藻Skeletonema属とラフィド藻Chattonella属の強光防御機構に着目し研究を進めた。本年度の培養実験では,窒素あるいはリン制限条件で対象種を連続培養する際,適光あるいは強光条件を与え,光強度の変化による応答に関して中心的に調査した。さらに,水産研究・教育機構の隠塚博士の協力のもと,NPQの誘導に必要なキサントフィルサイクルの色素を測定した。両種ともに,栄養塩制限によってキサントフィル色素が脱エポキシ化される割合が増加し,特にリン制限で高い値を示した。前年度のChattonella属のRNA-seq解析に加えて,Skeletonema属でもRNA-seq解析を実施し,岡山大学の植木博士の協力のもと,NPQの誘導に関わるLhcx遺伝子の同定及び発現量の比較を行った。
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