研究課題/領域番号 |
22J10450
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
宮澤 友樹 広島大学, 先進理工系科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | マルチラジカル / シクロパラフェニレン / スピン相互作用 / キノイド構造 |
研究実績の概要 |
これまでに、ジラジカルユニットをシクロパラフェニレン骨格に導入することで、新たに発現する面内芳香族性を明らかにしてきた。そこで、本年度は、複数のジラジカルユニットを有する大環状マルチラジカル化合物の発生とその電子物性の解明を試行した。対象分子として、2つのアゾユニットを4枚ずつのベンゼン環で架橋した環状アゾ分子2AZ-8CPP及び3つのアゾユニットを2枚及び3枚のベンゼン環で架橋した環状アゾ分子3AZ-8CPPを設計・合成した。それらの光脱窒素反応によって発生したマルチラジカル2DR-8CPP, 3DR-8CPPのスピン状態やキノイド特性を紫外可視吸収スペクトル測定や電子スピン共鳴測定、量子化学計算を用いて精査した。2DR-8CPPの電子スピン共鳴測定では、発生したテトララジカル2DR-8CPPは五重項種ではなく、熱励起で存在する三重項種として観測されることが示唆された。量子化学計算から、湾曲構造によって誘起されるベンゼン環4枚を介した弱いスピン相互作用によって、基底一重項になることを明らかにした。直鎖分子では、基底三重項であるため、環状骨格にすることによって基底スピン状態が変化していることを明らかにし、論文執筆を行い投稿した。3DR-8CPPの電子スピン共鳴測定では、発生したマルチラジカルは、二種類の三重項種として観測されることを明らかにした。また、3DR-8CPP は2DR-8CPPよりも安定であったため、紫外可視吸収スペクトル測定を試みた。その結果、ベンゼン環2枚および3枚のキノイド構造に由来する可視光領域での強い吸収が確認され、湾曲構造によって誘起されるスピン-スピン相互作用によって、キノイド特性が発現していることが明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、複数のジラジカルユニットを有する大環状マルチラジカル化合物の発生とその電子物性の解明を試行した。環状分子の高い湾曲エネルギーに加えて、アゾ分子が熱に弱いことからその合成は困難を極めたが、適切な前駆体を用いることで合成を達成することができ、その光照射で発生したマルチラジカルの物性調査を行うことが出来た。また、シクロパラフェニレンはC60などのフラーレンと錯形成することが知られていることを元にし、フラーレンのホスト分子として有用な環状アゾ分子の合成も並行して進め、達成することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き、環サイズの小さい又はアゾユニットの枚数が異なる環状アゾ化合物の設計、合成を行い、その光照射で生じたマルチラジカルの物性調査を試みる。近年では、3次元での芳香族性なども報告されているため、環状構造にとらわれる事なく、カテナン構造、ケージ構造の化合物も視野に入れ、ユニークな構造内でのアゾ分子の光脱窒素反応で生じたマルチラジカルの光学特性も検討する。同様に、フラーレンのホスト分子として有用な環状アゾ分子を用いて、ゲスト分子を包摂することにより新たに生まれるスピン-スピン相互作用の変化やその光学特性も調査する。これまで調査を行なってきた環状マルチラジカルは、直鎖状よりも反応性が高く、不安定であったため、ゲスト分子を導入することによって安定性が向上するかどうか検討を試みる。
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