本研究では、アゾ化合物の光脱窒素反応を用いてシクロパラフェニレン(CPP)構造内にマルチラジカル を発生させ、そのスピン状態や光学特性を精査することを目的とし、研究を試行した。対象分子として、アゾユニット(AZ)を6枚のベンゼン環で架橋したAZ-6CPPや二つのアゾユニットを4枚ずつのベンゼン環で架橋した環状アゾ分子 2AZ-8CPP、3つのアゾユニットを 2枚及び 3枚のベンゼン環で架橋した環状アゾ分子 3AZ-8CPP を合成した。その光脱窒素反応で発生したマルチラジカルDR-6CPPや2DR-8CPP、3DR-8CPPの基底スピン状態を電子常磁性共鳴(EPR)測定によって調査を行い、直鎖状では、基底三重項であったジラジカルが環構造に組み込むことによって基底一重項になることを明らかにした。また、3DR-8CPPのキノイド特性を紫外可視吸収スペクトル測定によって明らかにした。最終年度は、ホスト-ゲスト作用に着目し、環状アゾ分子 AZ-10CPPやフラーレンを導入したAZ-10CPP⊃C60を設計・合成し、その光脱窒素反応で発生したジラジカルDR-10CPPやDR-10CPP⊃C60の挙動について調査を行なった。理論計算により、基底スピン状態の予測を行ったところ、DR-10CPP では基底三重項であったが、フラーレンを包摂することにより、基底一重項になり、ゲスト分子の有無によって基底スピン状態を制御できることが示唆された。EPR測定を用いて基底スピン状態の調査を試みたが、EPRシグナルの飽和やフラーレンを包摂することによる脱窒素収率の低下などにより、ゲスト分子の有無によって基底スピン状態を制御できることを実測から証明することは困難であった。また、ヘテロ環の導入により、π 共役系の伸びたキノイド構造の構築を期待し、チオフェン環を導入した環状ジラジカルの物性調査も試みた。
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