研究課題/領域番号 |
22J12547
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
熊谷 友樹 広島大学, 医系科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | PPAD / Porphylomonas gingivalis / periodontal disease / Rheumatoid arthritis / citrullination / RAW264.7 cells / macrophage |
研究実績の概要 |
歯周病原細菌であるPhorphylomonas gingivalis(P. g)が関節リウマチ(RA)の発症に関与する可能性が報告されているが、分子生物学的な根拠は不十分である。RAの発症の原因の一つとして宿主由来のシトルリン化酵素(PAD)が考えられているが、P. gは口腔内細菌で唯一PAD (PPAD)を産生することが報告された。しかしながら、PPADが宿主タンパクをシトルリン化し、抗CCP抗体を誘導することを証明した報告は、未だない。我々は、P. gのRA発症への分子生物学的な因果関係を明らかにすることを研究目的とした。 実験にはRAW264.7マクロファージ様細胞(RAW細胞)を用い、P. gはW83株を全菌体もしくは外膜小胞を分離して細胞障害性を確認し使用した。PPADに特異的な配列のペプチドを合成し、PPAD阻害剤の候補としてPPADに対するモノクローナル抗体を作製した。作製した抗PPAD抗体を用いてその親和性と特異性を検討した。作製した抗体は歯周病原細菌のうち、P. gの全菌体または外膜小胞を特異的に認識することが確認された。P. gを感染させたRAW細胞とその培養上清を用いてビメンチンのシトルリン化の検出を検討した結果、培養上清のシトルリン化を確認した。また同様に検出されたビメンチンがシトルリン化されていると想定した。PPADの機能をさらに明らかにするためにPPAD欠損株を用いて増殖能・炎症性サイトカインの産生・貪食能についても検討した。PPADの欠損によりP. g自体の増殖能が向上したが、感染させたRAW細胞の増殖能には影響を与えなかった。P. gで刺激したRAW細胞の培養上清を用いてTNF-αの産生を調べた結果、P. g菌の全菌体よりも外膜小胞による刺激の方がRAW細胞のTNF-α産生を誘導したが、PPADの欠損や抗体による中和はそれに影響を与えなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
P. gのRA発症への分子生物学的な因果関係を明らかにするため、PPADに特異的な阻害剤の発見が必要である。 FRETシステムを開発するための前段階として、WBあるいはELISAベースでのシトルリン化検出システムの開発を試みたが、現在までのところPPADによるシトルリン化を特異的に認識できる良好な抗体を見つけることができなかった。RAW細胞を用いてシトルリン化タンパク質の一つとして知られているビメンチンのシトルリン化の検出をWBにて検討した結果、抗シトルリン抗体および抗ビメンチン抗体にてバンドが検出された。しかしながら、予備実験としてMass spectrometryを行った結果、ビメンチンのシトルリン化を検出することができなかった。このこともWBに用いている抗体に問題があると考えている。共同研究者であるDr.Minond(Nova Southeastern University)の持つ2万を超す化学物質あるいは自然物質のライブラリーからPPAD酵素活性阻害物質をスクリーニングする予定であったが、 上記理由のためFRETシステム開発が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
P.gがタンパク質をシトルリン化する条件を確立し、早期にFRETシステムの開発する。P.gによるシトルリン化を検出するための方法として、PPAD特異的シトルリン化部位を認識するモノクローナル抗体の作製を検討している。引き続きRAW細胞とP.gを用いてRAW細胞由来タンパク質のシトルリン化に与える影響を検討する。 RAW細胞をP.gに感染させ、細胞内タンパク質と培養上清中のタンパク質とでWBを行い、抗シトルリン抗体で検出する。この際、数種類の抗シトルリン化抗体をスクリーニングする。次に候補の抗シトルリン抗体を用いて免疫沈降を行い、P.gによってシトルリン化されるタンパク質の網羅的な解析を行い、シトルリン化タンパク質を同定およびシトルリン化部位を特定するためにMass spectrometryを行う。 RAで自己抗原となっていることが報告されている他のタンパク質のシトルリン化をリコンビナントPPADあるいは抗PPAD抗体で精製したPPADを用いて評価することでシトルリン化の条件を決定する。引き続き、Mass spectrometryを用いてPPAD特異的シトルリン化部位を特定し、FRETシステムの構築に取り掛かる。 このFRETシステムを用いて見つけた阻害剤の効果をまずはin vitroで検討する。RAW細胞に対してPPAD阻害物質の存在下あるいは非存在下にてP.gを感染させ、WBにてシトルリン化ビメンチンの発現について評価する。その後、PPAD阻害物質の効果をP.g感染歯周病モデルマウスおよびRAモデルマウスを用いて検討する。 具体的には、SKGマウスを用い、PPAD欠損あるいは野生型のP.gを口腔感染させ、歯周組織および関節の骨吸収、炎症細胞浸潤および破骨細胞形成、さらには血清中の抗CCP抗体価およびPPAD特異的シトルリン化部位を含むペプチドに対する抗体価についても評価する。
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