研究課題
本研究では、高強度レーザーを用いた誘導共鳴光子衝突器によるアクシオンを含むアクシオン的粒子探索実験を目指しており、本年度はそのための実験装置の改良や背景光の解析手法の確立をおこなった。実施者は、異なる真空度の真空容器間をオリフィスで接続し、その間を集光転送する光学系を用意することで、高強度レーザーが高真空度の容器内に物質の透過なく伝播できるように改良した。これにより、京都大学化学研究所で用いている高強度Ti:Sapレーザーを最高出力で探索実験に運用できるようになり、今後の探索で大幅な感度更新を見込むことができる。加えて、原子を介した四光波混合過程による背景光のうち、光学素子から放出される素子起因背景光の定量的評価手法の確立と除去可能性の調査をおこなった。定量的評価手法として、あらかじめ信号光が集光点で放出されるときの出射角分布を数値計算し、背景光の想定される分布と異なることを明らかにした。さらに、実際の実験で測定された出射角分布に相当する観測光量のレーザービーム断面積依存性の結果から、観測した光が信号光か背景光かを判別可能にした。この結果により、先行研究からアクシオン的粒子の探索感度を1桁更新した。さらに、2次元のICCDカメラを用いることで、背景光の2次元空間分布を測定し素子起因背景光が円形に分布していることを初めて確認した。これにより、観測光が伝播する光路上に背景光をふさぐマスクを用意することで、素子起因背景光を大幅にカットできるという可能性を見出した。これらの成果により、背景光の抑制と解析的除去が可能となり、より高感度な探索が可能となった。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定では、新しい真空容器および排気ポンプの導入と、新たな1300nm誘導用レーザーの実装を計画していたが、それぞれ計画の変更があった。まず新真空容器の導入については、真空容器を導入せず、ビームチューブの単管の中にコンパクトなビーム集光転送光学系を組み上げ、相互作用真空容器へビームを転送させる方法を考案し、構築した。これにより高強度レーザーを物質に透過させることなく、相互作用真空容器へ転送することが可能となった。これにより、当初予定していた新真空容器および排気ポンプの導入で予想される長納期を避け、より迅速に高強度レーザーを用いた探索に移ることが可能となった。一方で、新たに分かった課題として、真空容器間を隔てるオリフィスを挟んで配置されている1対の非軸放物面鏡を調整する機構が必要となり、それぞれに5~6自由度のステージを載せる設計を考え、それらの構築および調整をおこなった。2点目で予定していた新1300nmレーザーの導入に関しては、既存の誘導用レーザーの時点で発生していた背景光の評価手法の確立と低減を先に目指した。これは、新1300nmレーザー導入による高強度化の際より強く顕れることが想定されるため、低強度レーザーを用いた現段階で背景光評価手法を確立すべきと判断したためである。この評価手法として、数値計算を用いた信号光と背景光の予想される2次元空間分布を比較し、測定で得られた結果から信号光か背景光かを判別する手法を確立した。さらには、2次元ICCDカメラを用いて背景光分布を撮像することで、背景光除去用のマスク設置の検討が現実的となった。これにより新1300nmレーザーを導入せずとも背景光低減という観点での感度向上が見込める。
現在、真空容器を含めた実験装置の改良とそれに付随した光学系の大幅な変更を実施したところでる。ゆえに、先行研究よりも高強度なレーザーを用いて探索し、背景光の調査とマスク導入の検証をおこなう。パルスエネルギーの向上により先行研究から探索感度が2桁以上向上し、マスクの導入により探索感度が1桁以上向上する見込みである。これらが実施され有効であると確認できたのちは、新1300nm誘導用レーザーの導入を始める。このレーザーは3段階の光パラメトリック増幅によって、100uJ程度のパルスエネルギーでの運転を目指す。新たにレーザーを導入するため、そのビームパラメータを測定する光学系を構築する。特に、パルスエネルギーとパルス時間幅はパルスごとに変化することが想定されるため、探索中にshot-by-shotに測定する光学系を検討する。また、レーザーは長時間運転した際、温度や湿度によってミラーが動き光路がずれることが考えられるため、それらを調整する機構を組み込む。これらが完了したのち、Ti:Sapレーザーと新1300nmパルスレーザーを用いた高感度探索実験を実施し、探索領域をさらに2.5桁広げる。これにより、天体モデルに依存した他の国際共同実験を超えるパラメータ領域を探索する。
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Universe
巻: 9 ページ: -
10.3390/universe9030123
Journal of High Energy Physics
巻: 176 ページ: -
10.1007/JHEP10(2022)176
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