研究課題
本研究の目的は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症において重要と考えられている逆行性軸索輸送障害に及ぼす変異型optineurin(OPTN)の影響を解明することである。代表研究者は、逆行性軸索輸送に関与するモーター蛋白質であるdyneinがOPTNと相互作用する点に着目し、変異型optineurinが軸索での逆行性輸送障害を引き起こす可能性を考え、特にマイトファジー障害と生存シグナルの低下との関連性について検討を行う研究計画を立案した。令和4年度に実施した内容として、まず健常者由来iPS細胞株であるHPS4290を用いて、ダイレクトコンバージョン法による運動ニューロンへの分化を行った。脊髄運動ニューロンへの分化に必要な転写因子であるNeurogenin2、Islet-1、LIM-Homeobox3遺伝子をenhanced PiggyBacベクターを用いてエレクトロポレーションで導入し、Tet-On発現誘導システムを用いて分化誘導を行った。分化誘導終了後、軸索伸長が十分に得られた時点で脊髄運動ニューロンの分化マーカーであるChAT、Hb9 (MNX1)、Tuj1の発現を蛍光免疫染色で確認した。その後同様の手法でoptineurin変異(ミスセンス変異E478Gヘテロ接合およびナンセンス変異Q398*ホモ接合)を持つ患者由来iPS細胞3株を分化させて形態観察用チャンバーでの培養を行い、細胞体と軸索の分離を行って軸索観察を行うための実験系を確立した。今後はこの系を用いて、各株におけるOPTN、dyneinの軸索での発現と相互作用の有無を評価し、さらにミトコンドリア逆行性輸送および生存シグナル伝達に及ぼす影響を検証する予定である。
3: やや遅れている
iPS細胞を用いた運動ニューロン分化を行う系の樹立と安定に4ヶ月の期間を要したため、その後の患者由来iPS細胞の分化と形態観察用チャンバーでの培養開始が遅れた。コンタミネーション防止の観点から同時に多数のiPS細胞株の培養を行うことが困難であるため、健常者由来1株と患者由来3株の培養を完了するために長期間を要した。
令和5年度は形態観察用チャンバーを用いて、軸索でのOPTNとdyneinの相互作用の有無を近接ライゲーション・アッセイで確認する。特に変異型optineurinのdyneinへの結合能の変化の有無については免疫沈降法でも評価を行う。形態観察チャンバーで蛍光標識したミトコンドリアの逆行性輸送に、同じく蛍光標識を行った変異型OPTNが及ぼす影響を、ミトコンドリアの移動速度に着目して評価する。同様に、蛍光プローブで標識したBDNFの逆行性輸送が、変異型OPTN存在下で速度低下や取り込み頻度低下などの影響を受けるか検証を行う。更に、OPTN変異を有するiPS細胞株由来の運動ニューロンに正常OPTNコーディング配列を導入し、表現系の改善が得られるか評価を行う。
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