近年の肥満研究においては、どれだけ太っているか(脂肪量)のみならず、あとどれだけ太れるか(肥満限界)も注目されつつある。しかし、肥満限界の実体は未だ明らかにされていない。研究代表者は、新規脳因子であるneurosecretory protein GL(NPGL)が肥満を誘導すること、通常の肥満に伴う代謝異常を抑制することを明らかにしてきた。本研究では代謝異常の基盤病態である慢性炎症の抑制に着目した、NPGLが担う肥満限界の制御機構を明らかにすることを目的としている。初年度は通常食を給餌したマウスの内臓脂肪組織に存在し、インスリン抵抗性と密接に相関するM1(炎症性)/M2(抗炎症性)マクロファ―ジ比が低下することを明らかにした。最終年度は、皮下脂肪組織に存在するM1マクロファージ、M2マクロファージ、T細胞、B細胞の割合をフローサイトメトリーにより解析した。その結果、NPGLを過剰に発現させたマウスにおいて、皮下脂肪組織の重量が増加した一方で、免疫細胞の存在比に有意な差は認められなかった。したがって、NPGLは内臓脂肪組織におけるM1/M2マクロファージ比のみを低下させることで、脂肪組織における慢性炎症を抑制し、代謝異常を伴わずに肥満を誘導することが示唆された。本研究は中枢性因子であるNPGLが末梢の脂肪組織の蓄積と慢性炎症の抑制を同時に制御する可能性を示す初めての報告である。今後、本研究を起点に、中枢からの脂肪蓄積・慢性炎症制御メカニズムを解明していくことで、肥満及び生活習慣病治療に大きく貢献することが期待される。
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