研究実績の概要 |
本研究では、最もシンプルな反芳香族分子であるシクロブタジエンにおける積層多量体の合成を検討し、三次元芳香族性の発現や反芳香族性の抑制など期待される電子状態変化を実験的に明らかとすることを目的としている。本年度は主に、目的物の合成に向けた合成経路の開拓に取り組んだ。 これまでシクロブタジエンの合成等価体として用いてきたテトラへドランでは実現し得なかった、求電子的にも求核的にもシクロブタジエンユニットを導入できる前駆体の開発とグラムスケール合成に成功した。本前駆体を経由して、スタニル化、シリル化、フッ素化、アルキル化、アリール化といった多様な変換反応が適用可能であり、シクロブタジエンユニットを有する化合物のライブラリーを大幅に拡張できた。特に、温和な条件のもとクロスカップリングによってアリール化が可能になったことは意義深い。テトラへドランを用いる利点であった「シクロブタジエンへの任意の置換基導入」を短工程で達成できる本前駆体を足がかりとして、広範な分子デザインを実現できる合成経路を武器として積層シクロブタジエンの合成に取り組んでいる。 併せて、ケイ素を含有するクラスター状化合物シラピラミダンの研究成果に関して、J. Am. Chem. Soc., 2023, 145, 4757-4764にて報告した。シラピラミダンに関する研究と、本研究で達成した自在なシクロブタジエンユニットの導入法とを組み合わせ、多種多様なピラミダンが合成可能となると考えられる。
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