研究課題
【研究目的】本研究では、イオン交換機能を利用したキャリア量制御法の開発を目指す。対象物質として、クラウンエーテルによって形成されるイオンチャネル構造と、局在電子系を形成する[Ni(dmit)2]が共存した結晶Li2([18]crown-6)3[Ni(dmit)2]2 (Li塩)を用いる。このLi塩を金属イオンが含まれた水溶液中に浸すと、結晶内のLi+と水溶液中の金属イオンが交換される。この機能を利用してCa2+イオンと電子受容性のCu2+イオンを同時に交換することで、結晶に注入するキャリア量の制御を行う。【実施計画と成果】本年度は、Ca2+イオン交換後の結晶に対する単結晶X線構造解析やイオン交換機構の検討及び、Ca2+イオンとCu2+イオンの同時交換とその元素分析・電気伝導性評価を目指した。まず、Li塩をCa2+イオンを含む水溶液中に浸したイオン交換後の結晶(Ca塩)について単結晶X線構造解析を行った。その結果、Ca塩の超分子カチオンユニット中のクラウンエーテルの数は、Li塩に比べて減少しており、このイオン交換ではLi+イオンだけでなく結晶中のクラウンエーテルも水溶液中へ放出されることが明らかになった。また、Ca2+イオンと等量程度のクラウンエーテルが含まれた水溶液中にLi塩を浸してもイオン交換は進行しないことから、水溶液中の過剰なクラウンエーテルがイオン交換に影響を及ぼすことを明らかにした。次いで、Ca2+イオンとCu2+イオンの濃度比を調製した水溶液を用いてイオン交換を行った。この際、結晶中にCa2+イオンとCu2+イオンが同時に導入されることで、結晶中のキャリア量を制御できる。実際に交換を行った試料に対してEPMA測定を行った結果、両イオンが結晶中に導入されることが明らかになった。さらに、交換後の結晶の室温抵抗率は、Li塩に比べて6桁も低下することを確認した。
2: おおむね順調に進展している
本研究で使用するLi塩は、イオン交換後に結晶性が劣化するため、単結晶X線構造解析が困難であった。そのため、当初は高輝度X線構造解析を予定していたが、適切な温度、イオン濃度、交換時間でイオン交換を行うことにより、研究室レベルのX線構造解析装置でCa塩の結晶構造を同定することに成功した。これにより、今後は精密に制御したキャリア量(Cu2+イオンの導入量)と結晶構造を基にしたバンド計算の結果と相関させることが可能となる。また、Ca2+イオンとCu2+イオンの同時交換にも成功していることから、研究が順調に進んでいると言える。さらに、水溶液中に過剰に含まれるクラウンエーテルがイオン交換に影響を与えるという発見は、今後の結晶中に導入するイオン比の制御のための条件検討において重要な知見を提供している。これらの結果から、研究は順調に進んでいると考えている。
今後の研究では、水溶液中に含まれるCa2+イオンとCu2+イオンの比率を調整することで、結晶に導入するCu2+イオンの量を制御し、超伝導発現につながる金属相の発見を目指す。この過程で、導入されたキャリア量を評価するために、ICP発光分光分析を用いてCa2+イオンとCu2+イオンの組成比を正確に決定する。さらに、金属相が現れるか、あるいはその可能性がある試料については、高圧下での抵抗率測定も行う。また、クラウンエーテルがイオン交換によって脱離することを見出したため、今回使用した[18]crown-6以外のクラウンエーテルを金属イオン含有水溶液中に加えることで、イオンと分子の交換も随時実施する。これまでと異なるイオン選択性を有するクラウンエーテルを用いることで、交換されていなかった第5周期以降の金属イオン(銀、カドミウムイオンなど)の導入が可能になり、イオン交換を利用したキャリアドーピングの幅が大きく広がると考えられる。
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