研究課題
本研究では疎水性のホウ素薬剤からなる自己組織化ナノゲルを作製し、このナノゲルとタンパク質および無機ナノ材料を複合化させたハイブリッドナノゲルを開発することを目的としている。ナノゲルとこれらの材料を組み合わせることにより、BNCTだけではなく複数の治療法との併用が可能となり、無機ナノ材料として無機ホウ素化合物を複合化することで超高密度にホウ素が集積したホウ素薬剤の創製ができる。幅広い機能をもつ材料との複合化をおこなうことで、従来にない新たながん治療薬を開発することができる。本年度は開発した自己組織化ナノゲルとタンパク質医薬品とを複合化したハイブリッドナノゲルの作製とナノゲルおよびハイブリッドナノゲルの担がんマウスにおける腫瘍集積性および体内動態について検討した。マウスへと血中投与したナノゲルは腫瘍へ選択的に集積し、効果的にホウ素を腫瘍へ集積させることができた。ハイブリットナノゲルにおいては、タンパク質のみを投与した場合と比較して、腫瘍へのタンパク質の送達量が飛躍的に上昇した。以上の結果より、我々が開発したナノゲルは腫瘍選択性を持つ優れたホウ素薬剤であるとともに、タンパク質のデリバリーキャリアとしても有用であることが示された。本研究ではタンパク質だけでなく無機ナノ材料についてもナノゲルと複合化する予定である。本年度では複合化の前段階として、複合化させる無機ナノ材料のホウ素薬剤としての有効性を確認した。使用する無機ホウ素化合物として高いホウ素密度を有する窒化ホウ素を選択し、そのBNCTへの応用を検討した。その結果について論文の投稿を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では疎水性のホウ素化合物からなるナノゲルを作製し、タンパク質や無機ナノ材料と組み合わせたハイブリッドナノゲルを開発する。このハイブリッドナノゲルをBNCTのためのホウ素薬剤へ応用することで、これまでにない新たながん治療薬を創製することを目的としている。疎水性ホウ素化合物からなるナノゲルの基礎物性について、まず系統的な解析を行った。合成物の同定を核磁気共鳴分光法により行ったのち、ナノゲルの粒径、形態について動的光散乱測定、透過型電子顕微鏡観察により行なったところ、EPR効果に適した粒子径を有していることを明らかとした。また多角度散乱測定からナノゲルを構成する分子の数を決定し、ホウ素が高度に集積した構造を有していることを明らかとした。それだけでなく、このナノゲルはがん細胞と強く相互作用し、積極的に取り込まれることが細胞内のホウ素集積量の定量結果から明らかとなった。ここへ中性子線を照射することで臨床薬であるL-BPA/fructose錯体を凌駕する治療性能を有していることも実証した。ナノゲルとタンパク質医薬品を複合化したハイブリッドナノゲルを開発した。ナノゲルとハイブリッドナノゲルの担がんマウス中における体内動態を評価し、ナノゲルが腫瘍選択的なホウ素およびタンパク質の送達が可能であることを示した。無機ナノ材料として窒化ホウ素を利用し、BNCT用ホウ素薬剤としての性能を評価し、その結果について論文を投稿した。2年目に予定していたナノゲルとタンパク質医薬品の複合化とハイブリットナノゲルの基礎物性の評価を終えることができ、さらに無機材料の作製にも着手することができため順調に進展していると判断した。
初年度ではタンパク質とナノゲルを複合化したハイブリッドナノゲルの基礎的な物性から担癌マウスにおける体内動態まで評価した。次年度からはハイブリッドナノゲルの中性子照射下における抗腫瘍効果の検討を行い、BNCTの治療薬としての有用性を検討していく。無機ナノ材料については、ナノゲルへ複合化するための適切な表面修飾や形態の制御を行い、ナノゲルとの複合化を行う。また、並行して質量数10のホウ素を濃縮した無機材料についても合成していく。さらには、ナノゲルを構成するポリマーの骨格を直鎖から環状そしてデンドリマーへと変更し、ポリマー骨格によるタンパク質との相互作用に与える影響、さらには治療効果の違いを検討する。
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