本研究では、金属触媒と水分子を収容することができる層状二酸化マンガンの層間(=ナノ反応場)を利用し、活性点とその周囲の環境を精密に制御することで、理想的なナノ反応場設計法の確立を目的とする。本年度は、金属触媒と電解質中の水分子および金属カチオンの相互作用に着目し、(1)バルク電解質が反応中間体へ及ぼす影響の理解と(2)層間における金属錯体-水分子相互作用の制御を行った。 (1)一酸化炭素(CO)を選択的に生成するAg触媒上の二酸化炭素還元反応(CO2RR)メカニズムを観察し、CO中間体に対する金属カチオンと水分子の影響が明らかとなった。オペランド観測により、金属カチオンはCOO(H)吸着種と直接相互作用し、元々不安定なCOO(H)中間体を安定化させることが確認された。また、COO(H)吸着種とバルク水との相互作用を制限し、表面吸着水を選択的に消費することが確認された。過電圧の小さい領域では、金属カチオンは水和殻を介してCO吸着種と相互作用をするが、過電圧の大きい領域では金属カチオンとCO吸着種が直接相互作用し始め、CO吸着種を過剰に安定化させることが明らかとなった。 (2)層状二酸化マンガンの層間にNi錯体とFe錯体を共挿入し、金属錯体と水分子との相互作用を制御することで、酸素発生反応(OER)の高活性化に成功した。層間内でのオペランド観測により、金属錯体近傍の水分子の構造の変化を確認した。Ni錯体とFe錯体は孤立イオン状態で共存することで、Fe錯体が創り出す水和殻がNi錯体上で進行するOERの中間体の安定性を変化させ、活性が向上することが明らかとなった。XPS測定により層間内のNi錯体とFe錯体の電子状態が変化してなかったことから、ナノ反応場を利用することで、一般的なバルク金属の電子状態の制御とは異なり、電解質成分のみの制御が可能であることが明らかとなった。
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