研究課題/領域番号 |
22J20065
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
仲村 岳真 山口大学, 共同獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 野兎病 / Francisella / 病原因子 / 感染 / 細菌因子 / 宿主因子 |
研究実績の概要 |
野兎病菌 Francisella tularensis (F. tularensis) はヒトに対し高い致死性・感染性を示す高病原性細菌である。本研究課題では野兎病菌が持つ「細菌因子」及び宿主となるヒトが持つ「宿主因子」の双方を明らかとし、最終的に感染機構である「宿主-細菌相互作用」の解明を目指している。本年度は野兎病菌の病原性を規定する細菌因子として、野兎病菌が有する遺伝子pyrCを同定した。遺伝子編集により作製した野兎病菌pyrCの破壊株は、感染時にヒトマクロファージ様細胞株が産生するTNF-α, IL-1β, IFN-γなどのサイトカイン産生が野生型株と比較して上昇していたことから、細胞レベルでの自然免疫回避能が低下していると考えられた。PyrCはピリミジン塩基の合成経路に関わる酵素であることから、ピリミジン塩基の合成が自然免疫回避において重要な役割を果たすことが示唆される。また、CRISPR/Cas9ノックアウトスクリーニングによる野兎病菌の感染に関わる宿主因子の探索においては、ヒトが持つ2つの遺伝子が候補として選出された。これらの因子をノックダウンした宿主細胞は、コントロール細胞と比較して野兎病菌感染による細胞死がより強く誘導された。ノックダウンすることで感染感受性が上昇することから、野生型の細胞においてはこれらの因子は野兎病菌の感染を抑制する働きを担うと推察され、細胞レベルで野兎病菌の感染抵抗性に関わる宿主因子であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細菌因子の探索では、野兎病菌感染に重要な細菌因子として、ピリミジン合成経路に関わるpyrC遺伝子を同定した。pyrC遺伝子欠損株を構築しU937細胞に感染させたところ、野生株と比較して感染細胞の主要なサイトカイン産生の増強を認めたことから、pyrCが自然免疫回避に重要な因子であることが明らかとなった。宿主因子の探索では、CRISPR/Cas9スクリーニング系の構築・実施による宿主因子の候補選出を行った。スクリーニングでは、作出したランダムノックアウト細胞集団に野兎病菌感染と細胞数の回復を繰り返し、感染抵抗性を獲得した細胞クローンを濃縮した。これら細胞をシークエンス解析しノックアウトされている遺伝子を決定、野兎病菌の感染感受性に関与すると考えられる遺伝子を選出しリスト化した。文献調査やデータベース上の情報をもとに、これらリストから候補因子を4つ選出し、shRNAを用いてノックダウン細胞を作出した。野兎病菌を感染させて感染抵抗性獲得の再現を試みたところ、4つの因子いずれのノックダウン細胞でも再現性は確保できなかった。一方で、ノックダウンにより野兎病菌が引き起こす細胞死が増強される、感染抵抗性が低下していると考えられる因子が2つ特定された。これら2つの因子は野兎病菌の感染抵抗性に関与し、感染による細胞死や自然免疫による細菌の排除に関与する可能性が高い。上記のように、野兎病菌の免疫回避に関わる細菌因子を同定したことや、当初想定していた感染感受性に関わる宿主因子の同定はできなかったものの、感染抵抗性に関わると考えられる宿主因子を2つ特定できたことから、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果では、野兎病菌の免疫回避に関わる細菌因子を1つ、野兎病菌感染が誘導する細胞死への関与が示唆される宿主因子を2つ同定した。来年度以降は、2つの宿主因子それぞれについて注目し、ノックダウンが細胞死を増強する機構の解析を行う。野兎病菌が宿主細胞に引き起こす細胞死は多様な形式が報告されているため、まずは当該因子のノックダウンにより増強される細胞死がどの細胞死に該当するかを特定し、関連する分子の挙動を検討することで細胞死増強メカニズムの解明を推進する。また、CRISPR/Cas9ノックアウトスクリーニングにおいてヒット遺伝子の表現型が再現できなかった事実はスクリーニングの偽陽性に起因するものと考えている。よってより確実に候補選出をするため、感染により濃縮された細胞集団における変異導入部位を次世代シーケンサーにより網羅的に解析し、変異の導入頻度に基づく候補選出をするよう実験系の再調整を行ったうえで、引き続き感染感受性に関わる宿主因子の探索を行う。また、同定された宿主因子、細菌因子それぞれついてビオチンリガーゼを融合するベクターの構築を行い、相互作用解析を行う準備を進める。当初の予定と異なり感受性因子ができていないものの、感染抵抗性に関わる因子を結果的に同定できていることから、研究計画自体を変更する必要は無いと判断する。上記のように、今後はCRISPR/Cas9スクリーニング実験系の調整と、既に同定された細菌・宿主因子の相互作用の同定を並行して進める。
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