研究課題
SETは幹細胞性の維持に寄与する多機能性タンパク質であり、PP2A阻害タンパク質としてタンパク質のリン酸化レベルやヒストンシャペロンとしてヒストン修飾レベルに関与する。これまでに培養中の細胞密度の上昇がSETBP1転写促進を介してSETタンパク質安定化を引き起こすことを明らかにした。本研究では未だ明らかにできていない培養中の細胞密度の上昇が、SETBP1転写を促進する分子機構、ヒストン修飾レベルおよび幹細胞性に与える影響を解析することを目的に研究を進めている。本年度は当初の計画通り、複数のin silico解析から推定されたSETBP1転写因子候補から転写因子を同定することを目的としたSETBP1切断体の作製に取り組んだ。しかしながら、狙い通りの位置でSETBP1を切断することが困難であった。また昨年度から進行中であった6種類の細胞株における、細胞密度の上昇がヒストン修飾レベルおよび幹細胞マーカー発現量に与える影響についても解析を続けたが、複数の細胞株に共通するような変化は認められず、より詳細な解析の必要性が示唆された。一方で、SET発現量の変化が幹細胞性に与える影響を解析する中で、骨肉腫細胞株HOS においてSETがAkt活性化を介してmTORC1、Bmi-1シグナルを促進し、幹細胞性の指標であるコロニー形成能を高めることを明らかにした。興味深いことに複数のがん細胞株を用いた解析から、SETはMyc活性の高いがん種においてこの分子機構を用いて幹細胞性を維持することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
細胞密度の上昇がSETBP1転写を高める分子機構の解明、ヒストン修飾レベルに与える影響の解析という観点からは、当初予定した計画から遅れている。一方で幹細胞性という観点からは、これまで明らかにされていなかったSETがMyc活性の高いがん種においてAkt活性化を介してmTORC1、Bmi-1シグナルを促進し、幹細胞性の指標であるコロニー形成能を高めることを明らかにし、一定の成果を得ることができたと考えている。
現在遅れが生じている細胞密度の上昇がSETBP1転写を高める分子機構の解明、ヒストン修飾レベルに与える影響の解析を引き続き進めていく予定である。また研究を進めていく中でin vivo解析の必要性を感じた。そのため今後はこれらの技術の習得に努めていく。
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Journal of Biological Chemistry
巻: 300 ページ: 105584~105584
10.1016/j.jbc.2023.105584