研究課題/領域番号 |
21J23098
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
小林 大志朗 徳島大学, 大学院薬科学教育部, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | ペプチド / サクチペプチド / α位変換 / 合成後期多様化法 / フッ素 / ヘテロ原子 |
研究実績の概要 |
ヘテロ原子は様々な相互作用に関与するため、主鎖ヘテロ化ペプチド上のヘテロ原子がペプチドの物性および生物活性に与える影響について関心が集まっている。しかし、従来法ではその化学合成は極めて困難であった。そこで本研究課題ではロッセン転位反応による主鎖ヒドロキサム酸グリシンの主鎖アミノ化体への変換を鍵として、ペプチド合成最終段階での多様な選択的主鎖ヘテロ化法の開発を目指している。昨年度ではモデル基質においてロッセン転位と続くalpha位変換に成功していたため、本年度では基質汎用性検証や本法の応用展開について精査した。基質汎用性の面で問題となったのは、主鎖アミノ化体を与えるロッセン転位時に生成するイソシアネートが主鎖アミド結合と反応する点、および主鎖アミノ化体から他ヘテロ原子への変換に必須である亜硝酸ナトリウム添加時のチロシン側鎖のニトロ化であった。前者は主鎖アミドのベンジル保護による求核性の喪失、後者はラジカルスカベンジャーとしての没食子酸の添加により回避した。また、開発した主鎖ヘテロ化反応を用いて天然物サクチペプチド類の合成を達成するべく分子内チオエーテル化反応の開発に取り組んだ。その結果、分子内に保護システインとalpha-ヒドロキサム酸グリシンを含む基質において順次変換反応を行うことで、効率的に分子内チオエーテル化が進行し、モデル基質においてサクチオニンペプチドの合成に成功した。今後は実際の天然物合成に展開していく予定である。なお上記研究テーマ遂行過程でペプチド上のシステイン側鎖とトリプトファン側鎖を選択的に連結する反応を見出しており、本反応を利用した抗体修飾、および長鎖ペプチドのヘテロ2量化も同時に達成した。今後は医薬展開を指向して生物活性分子への構造展開を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述の通り、本年度では開発したα位変換反応の基質汎用性の検証に注力した。また、その過程でいくつか副反応が確認されたが、それらの原因を論理的に考察し、適宜条件を変化することでそれらを回避することに成功した。また、得られた最適条件を基に、サクチオニン構造の形成に挑戦し、円滑に分子内チオエーテルを形成することが出来る条件を確立した。現在では、以上の結果までを基に論文化を行っており概ねデータ取得も完了しつつある。また、本年度までの検討により、α位変換の過程で生成するアシルイミンの反応性について多くの知見を獲得することが出来た。特に、チオールが容易に反応しα位チオエーテル化が迅速に進行したことや、芳香環が反応する副反応に遭遇したことからもソフト性が強いことが示唆される。このことを念頭に置いて今後検討を進めることで、当初の最終目標であるα位フッ素化をも達成できることが期待できる。このように当初の目的通りペプチド上のα位選択的なヒドロキシ化、アミノ化、チオエーテル化をそれぞれ実用的なレベルまで推進させたうえ、次なるフッ素化を可能としうる知見も多数獲得できたことからも、本年度の進捗は順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの検討結果をもとに天然サクチペプチド類の全合成を目指す。また、獲得してきた知見を基に当初予定していたαフッ素化検討を本格的に行っていく。特に、フッ素化が進行しない場合アシルイミンのハード性向上が重要であると考えられるので、セリウム塩などのルイス酸添加も種々検討する。また合成したα位フッ素化ペプチドの構造決定には、F-NMRを含む種々NMRスペクトルを駆使して行う。最後に、得られたαフッ素化体の物理的性質およびフッ素原子の生物活性への影響を、CD・IRおよび生物活性ペプチドへの導入とその活性評価により精査していく予定である。なお導入する生物活性ペプチドについては、所属研究室で長年研究を行っている乳がん抑制ペプチドERAPを選択する予定である。
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