研究代表者は所属研究室の先行研究である免疫寛容誘導因子(ガングリオシド)搭載ポリエチレングリコール(PEG)修飾リポソームがPEGに対する免疫寛容を生じさせた知見に着想を得て、PEG修飾カチオン性リポソーム(PCL)に抗原(DNA)とガングリオシドを共に搭載したDNA/G-PCLであれば、抗DNA抗体分泌B細胞に特異的に免疫寛容を生じさせることができるのではないかと仮説を立て、これまで研究を行ってきた。令和3年度はDNA/G-PCLによって抗PEG抗体の誘導は抑制できるにもかかわらず、抗DNA抗体の誘導は抑制できない現象を確認した。そこで令和4年度は改善策として搭載核酸の分子量や密度を変更し、抗DNA抗体の分泌の抑制を試みてきた。しかしながら、依然として抗核酸抗体の分泌抑制効果が確認できなかったため、令和5年度はDNA/G-PCLによる抗核酸抗体誘導抑制効果の改善が確認できなかった原因の究明に取り組んだ。ガングリオシド受容体であるCD22の発現について、B細胞の抗原特異性によって差異がある可能性を考え、フローサイトメトリーを用いて確認したところ、驚くべきことに総B細胞及び抗PEG抗体分泌B細胞と比較して、抗DNA抗体分泌B細胞の膜上のCD22の発現が有意に低いことを確認した。以上の結果から、リポソーム上に搭載されたガングリオシドは、CD22の発現に富むPEG特異的B細胞の増殖を抑制した一方で、CD22の発現が低下しているDNA特異的B細胞の増殖を抑制しないことが示された。
|