研究課題/領域番号 |
22J23084
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
西本 健司 徳島大学, 大学院創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
キーワード | マイクロコム / 微小光共振器 / Avoided mode crossing / 分散制御 / 五酸化タンタル / 光周波数コム / 次世代通信 / 非線形光学 |
研究実績の概要 |
本研究は次世代大容量・高速通信に向けた高品質キャリア信号生成のために、マイクロコムを超低位相雑音化させることを目的としている。マイクロコムとは、低損失の半導体光導波路で形成されるリング型微小光共振器を利用してミリスケールまで縮小された光周波数コムの一種であり、周波数軸上で等間隔に並ぶ多数の周波数モードを持つ。また、一般的な半導体製造技術でシステム全体を作製可能であることから生産性や価格の面において高いアドバンテージを持つ。さらに、微小光共振器のリング半径で決定されるマイクロコムの周波数モード間隔は数百 GHzにも及ぶため、光周波数分周を利用したミリ・THz波発生による次世代通信キャリア発生等独自の応用領域を持つ。しかし、微小光共振器は熱揺らぎによる屈折率変動が比較的大きいため、発生したマイクロコムの位相雑音が増大することが知られている。位相雑音の増大は通信キャリアとしての品質を低下させるため、低位相雑音化の対策は必須である。 初年度は五酸化タンタルを利用した微小光共振器の作製と、結合リング型微小光共振器を利用したマイクロコムの位相安定化に向けた光スペクトル広帯域化実験を行った。五酸化タンタル製の微小光共振器は他の代表的な媒質と比較して一桁ほど低い熱屈折率係数を持つ。そのため、発生したマイクロコムの位相雑音は本質的に低減する事が予想される。本年度では、マイクロコム発生で重要となる高い光閉じ込め性能(Q値)を持つ共振器作成プロセスの再現性の確保に取り組んだ。結合リング型微小光共振器は2つの共振周波数が相互作用するAvoided mode crossing(AMX)を強力に発生させることが出来るデバイスである。本年度では、AMXを利用した局所的な分散制御を行うことで広い周波数スパンにわたり位相整合条件が満たされ、光スペクトルが広帯域化されたマイクロコムを発生させることに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の前半では、結合リング型微小光共振器を利用したマイクロコムの光スペクトル広帯域化に関する実験及び数値解析を行った。マイクロコムを含む光周波数コムは、光スペクトルの帯域を1オクターブ以上に拡張させることでf-2f干渉計を利用した絶対周波数の制御及び安定化による低位相雑音化が可能である。しかし、マイクロコムの場合は励起用CWレーザーからのエネルギー変換効率の低さが問題となり、1オクターブ以上の光スペクトルを発生させられる条件が非常に限定的であることが知られている。そこで、AMXを利用することで微小光共振器の分散に局所的に作用出来る点に着目し、これを利用してマイクロコムのスペクトル帯域を拡張する実験を行った。実験では結合リング型微小光共振器を利用したAMXを発生させることで被励起共振の分散を局所的に変化させ、励起用CWレーザーとの結合を強化することで光スペクトルが20 %以上広帯域化されたことが確認された。ただし、実験で使用した結合リング型微小光共振器は広帯域化に最適化されたものではなかったため、今後さらなる広帯域化が期待できる。また、被励起共振に局所的な周波数シフトを加えた計算モデルを利用して数値解析を行うことで、今後の共振器作成におけるデザイン指針の確認も行った。スペクトル広帯域化は低位相雑音化だけでなく他の応用でも重要な結果であり、様々な波及効果が期待できる。 初年度後半では、熱屈折率係数の小さい五酸化タンタルを素材に利用した微小光共振器の作製を主に行った。これまでの作成実験では一度世界最高レベルのQ値を持つ共振器の作製に成功しているが、再現性の確保に重要となる要素が特定されていなかった。初年度の実験では再現性の確保には未だ至っていないが候補となる条件は絞られたため、平均して高いQ値の微小光共振器が作成されているため、十分に有意義な結果が得られているものと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では五酸化タンタル製微小光共振器の作製が予定されていなかったが、これを推進したことにより光導波路材料の変更による位相雑音低減と、外注品では不可能だった自由度の高い共振器設計の実現性が高まった。今後高Q値微小光共振器の自作が可能となれば、実験結果から判明した共振器の最適形状を即座にフィードバックすることが可能となり多大なシナジー効果が期待できる。今年度の作製実験で高Q値化のために重要な要素の絞り込みを行ったため、次年度では引き続き高Q値化のための共振器作成実験を行う予定である。また、マイクロコムの発生にはQ値だけでなく導波路断面形状で決定される分散パラメーターも重要である。そのため有限要素法を利用したシミュレーションによる最適な導波路形状の特定を並行して行い、想定した形状を再現するための作成プロセスも模索したい。 また、初年度で行った結合リング型微小光共振器によるマイクロコムの広帯域化のための基礎研究は、f-2f干渉計を利用したフィードバックループによる周波数安定化に繋がるものである。しかし、マイクロコムは集積化が可能である特徴からシンプルな構成が求められる場面も多い。そこで次年度では、同じく結合リング型微小光共振器を利用した新しい手法による低位相雑音化について研究を行う予定である。この手法はAMXを利用して熱屈折率雑音が発生する原因となる熱光学現象を抑制する手法であり、複雑なフィードバックループを利用せずに大幅な低位相雑音化を狙う手法である。よって、マイクロコムが持つ生産性のポテンシャルを損なうことなく非常に高い位相雑音低減効果を達成するという重要な成果を得られることが予想される。 以上をまとめると、令和5年度における研究では高Q値微小光共振器の作製プロセスの確立と、結合リング型微小光共振器によるAMXを利用した位相雑音低減実験の実施を行う予定である。
|