研究課題
本研究では都市内の微生物情報を大量に含む水インフラを活用し、「観測されない不顕性感染 者・非来院患者を含むノロウイルス感染動態の理解」及び「微生物データや気象データ等の大 規模データと機械学習モデルを用いた感染者予測・検知」を行うことを目的とした。本研究では、従来の数理疫学モデルを拡張し微 生物データを組み込んだ数理モデルを構築する。 当初の研究計画ではノロウイルスの下水中濃度の時系列データをモデリングすることを予定していたが、COVID-19パンデミックに伴い、SARS-CoV-2を適用事例としながら同様の手法の開発を行った。本年度の成果として(1)「下水中ウイルス濃度から地域内の入院者数を予測するモデリング手法」の国際誌への投稿・出版(2)状態空間と拡張カルマンフィルタを用いた下水モデルの提案(3)新興感染症が発生した際に起こりうる、感染から発症、発症から確定診断までの報告遅れをそれぞれ推定する研究を行った。 (1)については、Eurosurveillance誌に投稿し、昨年度の分析に追加して感度分析を行った。(2)については、日本の複数自治体の協力を得ながら、複数のウイルス定量手法を用いて時系列データを集積した。それらのデータに本課題で提案する拡張カルマンフィルタを用いたモデリング手法を適用することで、報告感染者数の予測だけでなく、未報告の感染者を含む総感染者数の推定や、実行再生産数の算出、介入した際の効果を可視化するシナリオ分析などが可能になった。(3)については、Mpoxを対象として、潜伏期間・発症間隔・発症から確定診断までの時間遅れの推定を行った。そうした報告遅れを補正しながら、現状で潜在的に感染者数が何人存在するかの算出(Nowcasting)を行うとともに、介入政策がどの程度の強度で必要となるかをシミュレートしている。
1: 当初の計画以上に進展している
予定していたようなノロウイルスの時系列データを入手することは困難になったが、より詳細なデータがSARS-CoV-2を対象に得られた。また日本の自治体とも連携が進めることができ、実際に複数の都市から詳細な下水データが得られ、新しい研究課題として実際にデータ分析を進めている。また、私企業と連動することで、実際の自治体ニーズをヒアリングしながら産学連携で研究手法を現場で利用してもらえるような形で進展できている。本年度の成果として(1)の下水中ウイルス―入院患者数の予測モデルについては国際誌に受理され、 (2)の拡張カルマンフィルタを用いた機構モデルについては国内外の学会・セミナーにおいて発表を行った。 (3)の感染からサーベランスにおける捕捉までの時間遅れに関する統計的推定についても複数の成果を国際誌で出版でき、WHOやECDCが主催する専門家会議セミナーにおいて複数回の招待発表を行った。
申請当初の計画から、データの観点で遂行が困難になった部分については、第二年度の報告書時点で計画の変更を行っている。(COVID-19により構造的な変化が生じ、季節性のあるノロウイルスの流行データを長期時系列として得ることが不可能になったため。)今後の計画としては、第一に現在行っている拡張カルマンフィルタを用いた潜在的な感染者を推定するモデリング手法について、追加分析ならびに論文執筆を今年度中に完了する計画である。また、観測データが限られている(長期でえられないような)状況下で「個人のウイルス排出動態に基づく地域内での流行検出のシミュレーション」ならびに「複数のウイルス変異株が存在するときの感染伝播速度(増加率)の推定」を次の方針として予定している。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 7件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件) 図書 (1件)
The Journal of Infectious Diseases
巻: - ページ: -
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