研究課題
本研究ではジルコンメルト包有物の分析手法の開発と花崗岩岩石学への応用を目的としている。第一の到達点として、高温高圧溶融実験を用いたジルコンメルト包有物に関する分析手法を開発し、それらにトラップされたメルトと揮発性成分の組成を明らかにする。第二に、ジルコンメルト包有物から得られたメルトと揮発性成分の組成について全岩化学組成分析をはじめとした従来の花崗岩岩石学に応用することで、初生的なマグマの組成を復元する。最後に、ジルコンメルト包有物研究と従来の花崗岩岩石学との統合的な議論からマグマの正確な組成と固結年代・温度圧力・酸素分圧条件制約を行い、西南日本における白亜紀フレアアップ期の地殻の応答および、大陸地殻の成長過程を明らかにしていく。本年度は、概ね申請当初の予定通り、西南日本に分布する白亜紀深成岩類について深成岩岩石研究およびジルコンメルト包有物の組成分析手法確立を行った。深成岩岩石研究については、野外調査によって得られた花崗岩・斑れい岩の希土類元素組成分析・同位体組成分析を実施しするとともに、本邦の白亜紀苦鉄質岩については初の試みであるジルコンHf同位体組成分析を行うことで、その形成過程を議論し、学会発表を行った。ジルコンメルト包有物の組成分析手法確立については、昨年度確立した均質化・組成分析手法をアップデートしていくとともに、ラマン分光法を用いた包有物の相同定に着手するとともに、未知試料の分析時のガラススタンダードの検討をおこなっている。
2: おおむね順調に進展している
本年は、西南日本に分布する白亜紀深成岩類について(A)深成岩岩石研究および(B)ジルコンメルト包有物の組成分析手法の向上を図った。(A)深成岩岩石研究では、愛媛県四阪島梶島の野外調査および採集した斑れい岩・花崗岩の岩石試料について全岩Sr-Nd同位体組成分析・希土類元素組成分析(新潟大学)、ジルコンHf同位体組成分析(原子力機構)を行った。現在分析によって得られたデータを解析するとともに、公表のための論文執筆を行なっている。(B)ジルコンメルト包有物の組成分析手法の確立では、昨年度に確立させた、ジルコンメルト包有物(多相包有物)の均質化・組成分析手法ルーチンのさらなる向上を図るため、2次スタンダードの検討をおこなった。特に、長野県下諏訪に産する黒曜石について愛媛大学設置のSEM-EDS、京都大学設置のSEM-EDSを用い、組成分析を行うことでスタンダード候補試料の均質性や測定時間を検討した。また、京都大学設置の顕微ラマン分光装置を使用し、ジルコン形成時にトラップされたメルト包有物の流体相を含む相同定をおこなった。以上のように、分析のスケジュール及び、公表論文の執筆過程は概ね研究当初の進捗予想通りであり大きな遅延なく遂行できている。
・2023年度深成岩岩石研究およびメルト包有物の組成分析によって得られたデータを総合し、フレアアップ期の地殻がマントル活動によってもたらされた熱的・化学的影響を検討する。研究成果を博士論文に取りまとめるともに、国際学術誌に公表し、第10回国際花崗岩会議で成果報告を行う。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (4件)
Earth-Science Reviews
巻: 232 ページ: 104122
10.1016/j.earscirev.2022.104122