研究課題/領域番号 |
22J00430
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
樋口 健太 愛媛大学, 理工学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 量子共鳴 / 局所散乱行列 / 一般化古典軌道 / 確率振幅 / 共鳴トンネル現象 |
研究実績の概要 |
本年度は行列シュレディンガー作用素(1, 2, 3)および量子ウォーク(4)のそれぞれにおける量子共鳴について個別に研究を進め、主に以下の成果が得られた。 1)行列シュレディンガー作用素の量子共鳴:2つの(スカラー)シュレディンガー作用素を対角成分とする行列シュレディンガー作用素の量子共鳴の半古典漸近分布を研究した。特にスカラー作用素の一方が捕捉的(特に井戸型)、もう一方が非捕捉的であるような実エネルギーの近傍の量子共鳴に着目し、対応する一般化古典軌道の幾何学的量を反映して分布することを明らかにした。一般化古典軌道はそれぞれのスカラー作用素に対応する古典軌道の「和」として導入される。一般化古典軌道に確率振幅を定義することにより、Bohr-Sommerfeld量子化条件「固有値(または量子共鳴)では周期軌道を一周する確率振幅が1となる」を一般化した。 2)行列シュレディンガー作用素の散乱行列:一般化古典軌道に対する確率振幅を用いることで散乱行列の漸近挙動が明らかになった。特に、スカラー作用素に対して知られ、ダイオードに応用される共鳴トンネル現象に類似の現象が行列値の場合にも見られることを示した。 3)断熱遷移問題:1)において一般化古典軌道に確率振幅を定義する際、古典軌道同士が交差する点の近傍での超局所解の挙動の解析は行列作用素に特有の問題となる。1)ではその挙動を表す「局所散乱行列」を導入することで確率振幅を定義した。なかでも接触交差における局所散乱行列の漸近挙動については大きな進展となったため、その解析手法を断熱遷移問題に現れる1階の行列作用素へ適用した。両者の局所散乱行列には接触に関する共通の幾何学的量がみられることから、さらなる一般化が期待される。 4)量子ウォークの量子共鳴:量子ウォークに量子共鳴を導入し、量子ウォークの長時間挙動は量子共鳴の分布を反映することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記1)では行列シュレディンガー作用素の量子共鳴の分布を一般化古典軌道がなすグラフの及びその辺集合上の行列によって(漸近的に)特徴づけることに成功している。その「辺集合上の行列」は局所散乱行列を用いて定義されるが、3)では局所散乱行列がユニタリ行列となることが明らかになった。量子ウォークはグラフ上の各頂点に量子コインとよばれるユニタリ行列を対応させることで定義されるため、行列シュレディンガー作用素に「対応する」量子ウォークが考えられる。一方、4)では与えられた量子コインに対して量子ウォークの量子共鳴がどのように分布するのか抽象的な研究が進められている。この両方面からの研究が双方の理解を深めることが十分期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
1)擬微分作用素への一般化:局所散乱行列の漸近挙動を行列シュレディンガー作用素(2階)および断熱問題における行列作用素(1階)について示したが、これをより一般の行列値表象をもつ擬微分作用素へと拡張する。 2)多様な交差への一般化:これまで横断的な交差が考えられてきたものを接触的な交差へと一般化したが、3つ以上の古典軌道の交差や無限次の接触交差、相互作用の退化などのさらなる一般化を扱う。 3)グラフ上の量子ウォーク:現在は多次元正方格子上の量子ウォークに対して量子共鳴の研究を進めているが、行列シュレディンガー作用素に対応する一般化古典軌道のなすグラフを含むようなグラフ上の量子ウォークを扱う。 4)多次元空間における行列シュレディンガー作用素の量子共鳴:空間次元が上がると一般化古典軌道の交差は大きく多様性を増す。1次元の研究で得られた知見をもとに研究の進展を目指す。
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