研究課題
本研究は、本邦沿岸における海産生物の多様化機構の解明を目的とし、浅海性巻貝であるタマキビ属を主な研究対象とした形態的・生態学的解析および高解像度の遺伝的解析を実施した。2023年度は、九州島西岸部および島嶼部(対馬から屋久島)の固有種であるホリカワタマキビについて解析を進めた。本種の殻形態について解析したところ集団間に顕著な差異が見られることがわかり、主に肋状彫刻の顕著な型と、それらを欠く平滑な型に区別できた。こうした肋状彫刻の有無には、各集団の生態的特徴との関連が示唆された。また殻の模様パターンについても、集団間の差異が観察された。ミトコンドリア遺伝子を用いた遺伝的解析を実施したところ、分布域の地理的構造と対応した明瞭な遺伝的集団構造を呈した。さらに本種の進化史を詳細に把握するため、次世代シークエンサーを用いた高解像度の遺伝的解析(ddRAD-seq法)を実施し、得られたSNPs情報を解析した。ゲノミクス解析の結果、本種は集団ごとに明瞭に系統が分岐していた。以上より本研究はホリカワタマキビの形態的・生態的・系統的多様化現象を示した。すなわち、本種群は九州西岸部という狭隘な地理的範囲内にも関わらず、種レベルの多様化が示唆される海産生物である。これらは未記載種の複合体であるだけでなく、島ごとに固有種が存在する可能性があるため、進化生態学的な研究に加え、分類学的観点からの再検討もまた必要である。よってホリカワタマキビ種群は、本邦における海域の生物多様化機構を解明するための有望なシステムを我々に提供することが期待される。得られた成果について、2件の国際会議において口頭およびポスター発表を実施した。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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