研究課題/領域番号 |
20J40152
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
白木川 奈菜 九州大学, 工学研究院, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 肝臓 / 再生医療 / 組織工学 / マイクロニードル |
研究実績の概要 |
肝臓のドナー不足は世界的な問題となっている。体内での肝組織構築は、その解決が期待されるものの、豊富な血流を有する部位への移植と長期的な生体内培養が必須である。しかしiPS細胞等の腫瘍形成リスクを考慮すると、除去が容易な移植システムの確立が望まれる。本研究では肝臓表面に対して着脱可能な独自の移植システムを開発し、生体内において肝機能補助可能なレベルの肝組織を安全かつ低侵襲的に構築することを目的とする。マイクロニードルを有する生体適合性ゲルに肝細胞を包埋して肝臓表面に穿刺し、肝臓から肝再生を促す液性因子を拡散供給して肝組織化すると共に、除去可能であることを明らかにして安全かつ有効な肝再生医療を確立する。 具体的には、(1)マイクロニードルを有する生体適合性ゲル(コラーゲン等)をブタ肝臓やラット肝臓に穿刺し、基材の着脱や液性因子供給性能を評価することによってゲル基材の構造・組成を最適化する。(2)ゲル基材上で肝細胞を培養し得ることを明らかにすると共に、部分肝切除等で肝再生誘導したラット・マウスの肝臓表面に肝細胞固定化ゲル基材を穿刺して肝臓(ホスト)から肝再生を促す液性因子を拡散供給し、肝組織化及び作製した肝組織の除去を証明する。(3)本システムを用いて肝障害モデル(肝不全)マウスに肝組織を構築し、本技術の有効性(治療効果)及び作製した肝組織を他の肝不全マウスの移植治療に用い得ることを実証して応用展開に繋げる。 2020年度は、生体適合ゲルを用いたマイクロニードルを有する基材の開発を行った。NC微細加工機でアクリル等に直径200~1000マイクロメートルの円柱状のマイクロウェルを切削し、これを鋳型としてゲル基材作製を行った。さらにマウス・ラット肝臓に対して開発したマイクロニードルによる穿刺を試み、開発した基材を用いて肝臓表面を穿刺し得ることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、マイクロニードルを有する移植用ゲル基材の開発とその基本性能評価を予定していた。新型コロナウイルス感染症対策により、大学での研究活動が難しい時期もあったが、おおむね予定通りマイクロニードルを有する基材開発を行うことができた。 柔軟性の高い素材を鋳型に用いることにより、マイクロニードルゲル基材を容易に取り出すことのできる製造プロセスの開発を目指した。NC微細加工機で直径200~1000マイクロメートルの円柱状のウェルを切削したアクリル鋳型をシリコーン(PDMS)で複数回転写重合し、PDMS鋳型を作製した。マイクロスコープを用いて、作製したPDMS鋳型が切削したマイクロウェルを転写重合できていることを確認できた。PDMS鋳型に2~4%のアガロース及びアガーを導入してゲル基材を作製し、凍結乾燥してマイクロニードルの作出に成功した。作製した基材を走査型電子顕微鏡で観察したところ、アガロース、アガーを用いた基材ではスポンジ状の構造を有しており、基質濃度を上げるとスポンジ構造の密度増加、すなわち孔径のコントロールが期待された。基材を肝臓表面に貼付して肝臓側から移植基材へ液性因子を供給する際に、スポンジ状構造の孔径を厳密に設計することによって液性因子の透過性をコントロールできることが見込まれ、2021年度以降の検討が望まれる。 作製したアガロース、及びアガーによるマイクロニードル基材をマウス/ラット肝臓の表面に貼付したところ、基材への血液の含侵が認められた。また、肝臓表面の組織学的評価から、基材中への赤血球の浸潤、及び基材が肝臓表面に穿刺されている様子が見られた。今後、移植等により体内での安定した移植組織の構築に関して評価を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、開発したマイクロニードルに肝細胞包埋用ゲルを積層してマイクロニードルを有する肝細胞移植用基材を開発する。2020年度に開発したマイクロニードル基材の生体内での安定性評価と形状の改良を行い、肝臓表面に着脱可能なシステムを開発する。これまでにアガーやアガロースを用いてマイクロニードルの作製を行ったが、コラーゲンや肝臓由来細胞外マトリックスを用いたマイクロニードルの作製を試みる。移植後、肝臓表面から離脱可能な形状・素材でありながら、移植中は肝臓表面からの液性因子の運搬が可能となる基材の最適化を行う。 一方で、肝臓由来細胞外マトリックスを用いた肝細胞包埋用ゲルを開発し、肝細胞培養を行い、肝機能発現を評価して移植用ゲル作製法の最適化を行う。部分肝切除等で肝再生誘導したラット・マウス肝臓表面に肝細胞固定化ゲル基材を穿刺して肝組織構築を行い、構築した肝組織の着脱性を評価する。さらに構築した肝組織の積層を試み、構築肝組織の体積の増加を目指す。 2022年度は、前年度までに確立した技術を用いて、肝障害モデル(肝不全)マウスに肝組織を構築し、本技術の有効性(治療効果)及び作製した肝組織を他の肝不全マウスの移植治療に用い得ることを実証して応用展開に繋げる。具体的には、重度の肝障害(薬剤性肝硬変、及び高チロシン血症 I型)モデルマウスに対し、ラット・ヒト初代肝細胞、もしくはヒトiPS細胞由来分化肝細胞を移植する。移植実験の際には経時的に血中成分、肝組織の構造、機能発現、及び増殖性の評価を行う。さらに、移植肝組織の積層や、マウス肝重量の5%まで増殖させた肝組織を他の肝障害モデルマウスに移植することによる治療効果も評価する。
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