研究課題/領域番号 |
20J40172
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
富松 江梨佳 九州大学, 芸術工学研究院, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2021-01-04 – 2024-03-31
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キーワード | 時間知覚 / 運動知覚 / 時間錯覚 |
研究実績の概要 |
二つの短音によって区切られた時間間隔の知覚的な長さと一つの持続音の知覚的な長さを比較すると、前者よりも後者の方が長く知覚される。また、運動する物体の提示時間は静止した物体の提示時間よりも長く知覚される(時間伸長錯覚)。本研究では、これら二つの時間に関わる錯覚現象がどのような条件において生じるかを調べることによって、文脈的な情報統合過程を明らかにする。本年度は、様々な動きや速さを表す静止刺激を用いて、時間伸長錯覚が生じるかどうかを調べた。時間伸長錯覚が生じる可能性のある条件下において、静止刺激が表す運動の速さの評価が主観的な提示時間長に与える影響について検討した。これらの静止刺激の形状はそれぞれ異なるが、どの刺激も単純な構成要素からなっており、その刺激が1秒以下の短い時間提示されたときの運動印象の評価および主観的な提示時間長の測定を行った。その結果、最も動きの速さの評価が大きかった刺激の提示時間は、ほぼ静止していると評価されたものよりも長く見積もられた。すなわち、認知的な動きを表すような単純な構成要素から成る静止刺激を用いた場合においても時間伸長錯覚が生じる可能性が示唆された。また、刺激の形状は同じであるが、傾きによって運動印象を変化させうる4つの刺激を作成した。これらの刺激から得られる運動印象の違いによって、主観的な提示時間長が影響を受けるかどうかを検討した。単純な構成要素を用いて走っている人を表した静止刺激の傾きの角度を変えて短時間提示した。実験参加者は、それぞれの傾きにおける運動印象の評価および主観的な提示時間長の回答を行った。その結果、傾きによって運動印象が変わり、速さの見積もりが大きいほど、提示時間が長く知覚されることがわかった。この結果から、刺激の形状そのものではなく、刺激から見積もられる認知的な運動の速さが主観的時間長に影響していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
認知的な運動自体が時間見積りに影響を与えている可能性を検証していくにあたって、第一歩となるデータが得られたと同時に、時間知覚に関わる情報統合を考察するための貴重なデータが得られた。聴覚において運動印象を生じさせるような刺激も作成済みであり、今後、聴覚においても知覚的あるいは認知的運動と時間知覚の関連性を調べていくことによって、感覚の違いを超えた視点から時間知覚に関わる情報統合のしくみについて検討していくことも可能である。次年度に向けて新たな実験刺激の作成や実験計画および予備実験も行い、着実に研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、実験心理学的手法を用いて主観的時間長を調べ、時空間的文脈を考慮した情報統合がどのようになされるかを検討する。これまで、聴覚や視覚など、単一感覚内で時間間隔を成す単純な刺激に生じる主観的時間長について実験を行い、単純な時間知覚の生じ方について検討してきた。また、変化回数、移動感、および、認知的な運動が時間長の知覚に与える影響について検討した。今後は、これまで得られた知見をもとに、想定した全ての処理段階において生じる時間知覚の仕組みを調べ、時間がどのように知覚されているのかを考察する。主観的時間長は、再生法や調整法、マグニチュード推定法など、心理物理学的手法を用いて測定する予定である。運動する物体の提示時間は静止物体よりも長く知覚されるが、自己運動知覚や認知的な運動に加え、背景の運動も提示時間長の知覚に影響を与えるかどうかを調べる実験を行う。加えて、認知的に「前」へ運動する物体と「後」へ運動する物体に対して生じる時間知覚を比較する。これらの結果をもとに、刺激自体がどのように知覚・認知されるかということと、時間知覚とを切り分けたうえで、それらの処理の構造を考察していく。また、聴覚においても、運動知覚等、呈示刺激に付随した特性と、呈示時間長の知覚との関連性を調べていくことによって、視聴覚両面から時間知覚に関わる情報統合のしくみについて考察する。刺激の適切な設定を検討し、実験プログラム作成などの実験準備を行う。準備ができ次第、実験を行い、データを収集する。一連の実験の結果を論文等にまとめ、発表する。
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