本研究では、時間的な体制化が様々な処理階層でなされているような刺激を用いて、時間知覚処理を順序立てて調べ、時空間的文脈を考慮した情報統合がどのようになされているかを明らかにすることを目的とした。本年度は、前年度より引き続き、運動する物体の提示時間が静止した物体の提示時間よりも長く知覚されるという時間に関わる錯覚現象がどのような条件において生じるかを調べることによって、情報統合過程の一端を明らかにすることを試みた。また、本年度は研究の総括として一連の実験成果をまとめ、国際学会で発表を行い、成果を論文としてまとめた。物理的に運動している刺激だけでなく、比較的高次での処理が必要とされるような認知的な運動を表す様々な視覚刺激を提示し、その提示時間の知覚的長さを測定し比較した。その結果、運動を表す刺激自体の形状や傾きを変更してスピード感の見積もりを高めた刺激を提示した場合の方が、スピード感が低く見積もられた刺激を提示した場合よりも知覚的な提示時間長が長くなった。物理的な運動がない状態かつ刺激の形状は変更せず傾きのみ変更してスピード感を高めた場合であっても、提示時間長の見積もりが長くなることから、物理的な形状ではなく認知するスピード感が重要であり、認知的な運動であっても直接的に提示時間の見積もりに影響を与えることが示唆された。また、運動感を強めるようなものを付け加えた場合と運動感を強めないものを付け加えた場合とを比較したところ、提示時間の見積もりには差が認められなかった。これらのことから、刺激自体によって認知的な運動を表すことが、提示時間の見積もりに対して影響したことが示唆された。
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