μ粒子の異常磁気能率の実測値が理論予測から大きく逸脱していることが米国での先行実験およびその追加実験によって報告された。これは素粒子物理学の標準模型を超える新物理探索の手がかりとなる。しかしながら、どちらの実験も魔法運動量のμ粒子を使用するという同じ手法に基づいており、検証実験が求められている。そのため、日本において指向性の強いμ粒子ビームを用いた新手法による測定実験を計画している。本実験にはコンパクトかつ高精細な陽電子飛跡検出器が必要であり、陽電子の通過位置を190umの精度で測ることのできるシリコンセンサーを多数並べる設計を採用する。 最終的な物理成果の達成には、実験期間中にセンサ位置・回転・形状を1um程度の精度で理解し続けなければならないという厳しい要求がある。他実験の同種の検出器では10um程度の精度であるため、要求精度を実現するためのセンサ位置合わせの手法について研究を実施した。 具体的には、実験本番中に陽電子飛跡を用いることでセンサーを位置合わせする手法を検討し、十分な統計精度が実現できることを確認した。同種の手法はすでにコライダー実験などで採用されているが、本研究では検出器の各種変形モードをヘッセ行列の固有ベクトルを基底として表現し直すことで、本手法が原理的に苦手とする変形モードに対してもその精度を定量的に取り扱うという工夫を施した。この結果により、陽電子飛跡によるセンサー位置合わせを中心として別途開発中の検出器の精密組立や干渉計を用いた測長網の導入と組み合わせることで、1um精度の実現に向けて現実的な解を構築できるようになった。
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