研究課題/領域番号 |
21J00573
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松本 惇志 九州大学, 理学研究院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | リポソーム / アルコール / 麻酔 / 上皮細胞 / 細胞接着 |
研究実績の概要 |
本年度はまず、採用前の所属研究室で私が構築した、gentle hydration法を用いた巨大リポソーム(GUV)の調製システムの移設・再構築を行い、以前のシステムと同等のGUVが得られることを確認した。 また、麻酔薬の一つであるアルコール類による、上皮細胞に対する影響の観察を行った。マウス培養上皮EpH4細胞を炭素数2-12の各n-アルコールの存在下で培養したところ、すべてのアルコールで増殖阻害が観察された。また、その最小阻害濃度(MIC)を決定したところ、鎖長(脂溶性)に応じて作用が増強するMeyer-Overton相関を示した。したがって、動物個体に対する麻酔作用・多様な微生物に対する増殖阻害作用と同様に、上皮細胞に対しても脂溶性を基盤とした生物作用を示すことが明らかとなった。 さらに、エタノールを用いて、上皮細胞特異的な細胞膜構造に着目して詳細な解析を行った。上皮特異的な細胞間接着のひとつであるタイトジャンクションには、Claudin、Occludinといった膜貫通タンパク質が顕著に濃縮するが、MICに近い濃度のエタノール存在下ではその濃縮がわずかに減弱する様子が観察された。タイトジャンクションの形成には接着部位におけるコレステロールの濃縮が重要であることが近年明らかになっており、アルコールはこの脂質局在に影響を与えることが示唆される。次年度は、アルコールによる脂質の挙動の変化や、細胞全体の脂質組成の変化に着目した解析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
私が博士課程時代に構築していた、gentle hydration法を用いた巨大リポソーム(GUV)の調製システムを予定通り再構築し、すでに稼働している。また、現在の所属研究室の特色である動物細胞を用いた基本的な細胞生物学的手法や、細胞からの脂質の抽出、質量分析計を用いた脂質プロファイルの分析などの脂質分析手法についても習得した。麻酔機構の解明には細胞の脂質の役割を詳細に解析する必要があると考えられるが、以前の所属では困難であった、脂質細胞生物学的な研究を推進していくための技術を学ぶことができた。 研究の進展という観点でも、麻酔薬の作用機構解明の糸口であるMeyer-Overton相関が、アルコールの上皮細胞に対する増殖阻害作用でも観察されたことで、麻酔薬の生物作用の解析に上皮細胞を用いるという試みの妥当性は確認されたといってよい。加えて、エタノールを用いた詳細な実験では、上皮細胞の特徴的な細胞膜構造への影響が観察され、効果を詳細に検討する段階まで進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、アルコールの添加による細胞接着関連因子の局在や、膜構造そのものの変化をより詳細に捉えることを試みる。さらに、より具体的な脂質の役割に迫れるよう、脂質の局在や膜物性、脂質プロファイルの変化を組み合わせた解析を推進していく。脂質合成に関わる遺伝子の破壊株を樹立し、脂質プロファイルがどのように変化するか、またそれによってアルコールに対する感受性が変化しうるかについても検討を試みる。脂質組成とアルコール感受性に関連があるようであれば、それが純粋に脂質の影響であるかを確認するため、各株の脂質組成を模したGUVを調整し、アルコールの添加効果を比較する。
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