研究課題/領域番号 |
21J20013
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小野 千里 九州大学, 医学系学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 自己免疫疾患 / B細胞免疫寛容 / 自己免疫疾患モデル / 活性化B細胞 / 活性化T細胞 / 疾患特異性 |
研究実績の概要 |
本研究は、B細胞免疫寛容の新規メカニズムの解明と、その機序の破綻による自己免疫疾患発症の仕組みを理解することを目的とした。 2022年度は、B細胞特異的Fcrl5の発現上昇が自己免疫疾患発症だけでなく、病態の増悪に関与するのか明らかにするために、Fcrl5 Tg(B細胞特異的Fcrl5過剰発現)マウスにいくつかの自己免疫疾患モデルを誘導し、病態増悪および疾患特異的または普遍的に見られる現象かどうかを確認した。モデルとしては、SLE様モデル(イミキモド誘導モデル)、関節炎モデル(メチル化BSA誘導性)を用いて検討した。SLE様モデルをFcrl5 Tgマウスに誘導すると自己抗体の産生が亢進し、腎臓におけるリンパ球の浸潤が増強された。さらに脾臓の活性化B細胞(GC B細胞やABCs)や活性化T細胞(Th1, Tfh, Treg)が増加していることから、炎症性細胞の増加にFcrl5の発現上昇が関与し、病態の増悪に関与する可能性が考えられた。一方で、本研究ではFcrl5欠損マウスを樹立しているため、このマウスに同モデルを誘導し、病態の抑制がみられるか検討した。その結果、本モデルを誘導したFcrl5欠損マウスでの病態抑制は確認できなかったが、WTと同様のフェノタイプを示した。さらに、関節炎モデルでも同様に検討したが、WTとの差は確認できなかった。 これらの結果から、本年度の研究ではFcrl5のB細胞における発現上昇は自己免疫疾患の発症だけでなく病態増悪にも関与していることを明らかにした。さらに、SLE様モデルでのみフェノタイプがみられたことから、疾患特異性が存在する可能性も提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の研究計画通り、自己免疫疾患モデルを用いた病態への影響およびFcrl5欠損マウスとの比較を行った。その結果、SLE様モデルにおいてFcrl5の発現上昇は病態の増悪に関与するという結果が得られた。また、Fcrl5欠損マウスについても検討し、病態の抑制は確認できなかったが、WTと同様に病態が誘導されることが確認できた。さらに、他のモデルでも検討したが、病態の増悪は確認できなかったことから、Fcrl5の作用が疾患特異性をもつ可能性を示唆する結果を得ることができた。また、SLE様モデルを使用したことから、TLRシグナルとFcrl5との関係性を新たに見出し、今後の研究展開を考えるうえで重要な研究結果となった。以上より、本年度の研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではこれまで、Fcrl5のB細胞における発現上昇はB細胞の免疫寛容破綻を誘導し、自己免疫疾患の発症だけでなく病態増悪にも関与していることを明らかにした。しかし、Fcrl5がどのような機序でB細胞の免疫寛容破綻にかかわるのか、そのメカニズムは不明であるため、今後はB細胞上のFcrl5の機能について検討する。現在、Fcrl5のリガンドは不明であるため、初めにリガンドの同定を試みる。リガンドが同定できれば、それを用いて刺激実験を行い、BCRシグナルに与える影響を調べる。また、リガンド同定に至らない場合でも、抗Fcrl5抗体を用いたB細胞活性化をin vitroで検討する。これまでの研究結果から、Fcrl5はTLRシグナルの増強に関与する可能性が考えられたことから、TLRの刺激と同時に抗Fcrl5抗体によるB細胞刺激を加え、B細胞活性化におけるFcrl5の機能を検討する。一方、抗Fcrl5抗体によりB細胞機能を阻害する可能性があれば、Fcrl5阻害抗体による自己免疫疾患に対する治療効果の検討を試みる。具体的には、抗Fcrl5 F(ab’)2 抗体を、自己免疫疾患モデルマウスに投与し、発症時期や症状に変化がみられるかを検証し、新規治療戦略として可能性を探る。
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