研究課題/領域番号 |
21J20048
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
金 龍熙 九州大学, 理学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | ハドロン物理学 / 崩壊反応 / 強い力 / カイラル有効模型 / ダイクォーク模型 / 対称性の自発的破れ / フレーバー対称性 / 量子異常 |
研究実績の概要 |
チャームクォークもしくはボトムクォークを1つ含むシングルヘビーバリオンは、残り2つの軽いクォークが仮想的な結合状態にあり、ダイクォーク描像をもつと期待されている。本研究ではシングルヘビーバリオンについて、強い力が影響する崩壊反応をダイクォークの観点から研究する。 まず、スカラーダイクォークとベクトルダイクォークとの相互作用を表すカイラル有効模型を作成し、特にダイクォークとして振る舞う可能性の大きい「スカラーダイクォーク」と「軸性ベクトルダイクォーク」との相互作用について詳細にまとめる。次に、先行研究にて構築されたダイクォーク - ヘビークォークポテンシャル模型を用いて波動関数を導出する。これらを用いて、π中間子が放出される崩壊反応の崩壊幅(崩壊する確率)を計算し、カイラル有効模型のパラメータを導出し、カイラル対称性の破れとの関係性を考察する。 以下より、カイラル対称性の破れと崩壊幅との関係についての解析結果を記述する。まず、本研究で新たに記述されたカイラル有効模型のみから崩壊幅の変化を見てみると、カイラル対称性が保存された状態に近づくにつれて一定の値から微かに大きくなることがわかった。これには量子異常が起因しているが、そこまで大きな影響はなかった。 次に、先行研究で与えたカイラル有効模型から分かる、カイラル対称性の破れとダイクォーク質量との関係性を付加して考察してみる。すると、カイラル対称性が保存された状態に少しでも近づいただけで、崩壊幅が一定値から0になることが分かった。これは、カイラル対称性が完全に破れた状態と保存された状態との間で、スカラーダイクォークと軸性ベクトルダイクォークの質量が互いに反転していることが原因である。この研究結果は、より高温・高圧力な環境に進むほどシングルヘビーバリオンの崩壊反応が起こらなくなり、いずれは測定されなくなることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ダイクォークのカイラル有効模型を用いたハドロンの解析について、以前までは質量・エネルギーのみから研究を進めていたため、調査するハドロンの物理量の多様性に欠けていた。しかし本年度は今までとは違い、「強い力が影響した崩壊反応」という新たな観点からバリオンの性質を調査し、特に崩壊幅という新たな物理量について解析を進めたため、ハドロンの解析をより広い範囲で研究できたといえる。崩壊反応という観点からの研究は、当初の研究計画の一例として考えていたが、崩壊反応についての勉強と同時並行して研究成果も得られたため、進展状況は順調と判断している。
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今後の研究の推進方策 |
ダイクォーク描像が期待されるバリオンについて、今年度は崩壊反応をテーマとして研究を遂行した。今後の方針としては、今回の研究で与えられたカイラル有効模型を応用し、励起状態におけるバリオンの崩壊反応とその崩壊幅について解析していきたい。もしくは新たな方針として、「点粒子としてのダイクォーク」を「大きさをもつダイクォーク」へ更新し、クォーク間の距離という大きさを持つダイクォーク模型を新しく構築していきたい。
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