研究実績の概要 |
チャームやボトムといったヘビークォークを1つ含むシングルヘビーバリオンや、クォーク・反クォークを合わせて4つ以上含む異種ハドロンは、軽いクォーク2つの仮想的な結合状態により「ダイクォーク」というクラスター構造を形成することがと期待される。本研究では特にカラー反対称なダイクォークについて、「ダイクォークのカイラル有効理論」の観点から主に解析を進める。
本年度の研究ではこのダイクォークについて、カイラル有効理論に加え、2つのクォーク間にサイズや密度分布を付加することで剛体とみなし、2粒子系により近い描像にして解析を進めた。その結果、ダイクォークの中で1,2番目に安定している「スカラー」「軸性ベクトル」ダイクォークは、点粒子とみなして解析していた先行研究と比較しても質量に大きな変化はなかった。対して、これらのカイラルパートナーである「擬スカラー」「ベクトル」ダイクォークは、付加されたサイズや密度分布による質量が加算され、ダイクォークそのものの質量は先行研究よりも軽くなった。
また本年度はこの他に、ダイクォークのカイラル有効理論を一部更新し、それがシングルヘビーバリオンに及ぼす影響を解析するという研究も進めた。その結果、先行研究で与えられた「ストレンジクォークの有無による擬スカラーダイクォークの質量反転」というダイクォークの性質は必ず約束されるものではなくなったが、「カイラル対称性の回復により軸性ベクトルダイクォークとスカラーダイクォークの質量が反転する」という性質はより確実となり、故に「高温・高密度空間では、軸性ベクトルダイクォークが最も安定する」ことが分かった。このことは、「パイ中間子を放出するシングルヘビーバリオンの崩壊反応は、より高温・高密度な環境に近づくほど起こらなくなる」という昨年度の成果をより強く主張する理論結果でもある。
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