「あ」は「い」よりも大きい感じがする。「キキ」は「ブーバ」より尖った感じがする。このように,ことばの持つ音そのものが意味を伝達する現象は【音象徴】と呼ばれており,多くの研究で示されているが,その形成プロセスについては未だ明らかでない。本研究の目的は,発音時の筋運動感覚が音象徴の形成プロセスに果たす役割を解明することであった。2022年度の研究において,単語を構成する子音の調音位置の移動方向によって単語の印象が変化するという「インアウト効果」が,日本語話者においても頑健に生起することがわかった。2023年度はこの成果について論文を執筆し,現在投稿中である。 調音位置の移動という発音時の運動がどのように印象形成に寄与するのかということについて,内向き単語は食べる動きを,外向き単語は吐き出す動きを模倣することになるために好ましさが異なるのではないかという摂取関連説に着目し,本年度はさらに2つの研究を行った。一つは日本語実在オノマトペにおける調音位置の移動についての調査,もう一つは調音位置の移動方向を操作した無意味語を用いた意味推測実験を行った。前者については日本心理学会とヒューマン情報処理研究会 (HIP) にて発表を行い,後者は後続実験を検討しながら成果発表を準備中である。 また,2021年度から取り組んでいた,視聴覚間協応の分類に関する研究の論文がPLOS ONE誌に掲載された。この研究では,視聴覚間協応が少なくとも2つに分類できることと,視聴覚間協応の分類における言語のかかわりの重要性が明らかになった。
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