研究課題/領域番号 |
21J20683
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
河原 康仁 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 鉄鋼材料 / 透過型電子顕微鏡 / 炭素クラスター / 炭化物 / 強化機構 |
研究実績の概要 |
鉄鋼材料の高強度化は構造物や輸送機器の安全性や信頼性の向上、省エネルギー化などに大変有効である。これまで、鋼の基地中に固溶させた異種元素(固溶強化)や、分散させた析出物(析出強化)を用いることによって、塑性変形の要因である転位をピン止めし、その運動を抑制することにより、鉄鋼材料の高強度化が行われてき ている。 近年、通常よりも低温で時効処理を行うことで生成する炭素クラスターを利用した鉄鋼材料の高強度化が注目され始めている。炭素クラスターが優れた強化能を有することを示唆する研究がこれまで多くなされているが、炭素クラスターと転位の相互作用を直接観察した例はなく、強化機構は不明のままである。そこで、本研究では、炭素クラスターと転位の相互作用をリアルタイムで観察することができるその場引張TEM法を用いることで、強化機構の解析を行った。 その場引張TEM観察を行うことにより、転位が炭素クラスターに対して大きく張り出す様子を直接観察することに成功し、炭素クラスターが高強度化に寄与することを実証するに至った。更に、時効に伴う炭素クラスターの分散状態および原子構造の変化をTEMにより解析した。炭素クラスターの分散間隔が最も短くなる時効時間において、ピーク強度が発現する様子が確認された。また、ピーク強度以降において、炭素クラスター中にε炭化物が析出する様子が観察された。本結果は、炭素クラスターが鉄鋼材料の強度上昇に寄与するだけでなく、ε炭化物の分散状態を左右することを示唆している。本結果の詳細については、Materials Characterization誌 183巻 11579号に公開している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
その場引張TEM観察を行うことで、炭素クラスターと転位の相互作用を直接観察し、炭素クラスター強化量を定量的に見積もることに成功している。当初計画していた炭素クラスター強化量の定量評価に加えて、現在は炭素クラスターの結晶構造の詳細な解析を行っている。炭素クラスターと転位の相互作用を議論する上で、炭素クラスターの結晶構造に関する情報は必要不可欠である。これまでの解析で、原子構造を直接解析可能な原子分解能STEM法を炭素クラスターに適用することが可能な条件出しに成功している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では現在までに、その場引張TEM観察を行うことで、炭素クラスターと転位の相互作用を直接観察し、炭素クラスター強化量を定量的に見積もることが出来ている。今後は、原子分解能STEM法などを用いることにより、炭素クラスターの原子構造を詳細に解析し、炭素クラスターと転位の相互作用の起源を理解することを予定している。 さらに、鉄鋼材料中における炭素クラスターを介した炭化物の析出機構の解明に取り組むことを予定している。これらを通して、炭素クラスターを介して炭化物を析出するメカニズムを解明するなどにより、組織の微細化と炭素クラスターの高安定性を実現する指針を確立することを目標としている。
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