研究課題/領域番号 |
21J20683
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
河原 康仁 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
キーワード | 鉄鋼材料 / 透過型電子顕微鏡 / 炭素クラスター / 炭化物 / 強化機構 |
研究実績の概要 |
低炭素鋼はフェライトの高温域から焼き入れし、50 ℃といった低温で時効処理を行うと、炭素クラスターが発現するなどして、200 MPaも強度上昇する。2021年度に実施したその場引張TEM観察において、転位が炭素クラスターに対して大きく張り出す様子を直接観察することに成功し、炭素クラスターが高強度化に直接寄与することを実証するに至った。また、ピーク強度以降において、炭素クラスターの中心部にε炭化物が析出する様子が観察され、炭素クラスターが鉄鋼材料の強度上昇に寄与するだけでなく、ε炭化物の分散状態を左右することが判明した。 この結果を受けて、2022年度では、200 ℃で時効処理を行った低炭素鋼中の生成相の微細構造を、原子分解能STEM法によって解析することに取り組んだ。200 ℃は、マルテンサイト鋼の靭性改善の際に行われる低温焼き戻し処理の温度であり、遷移炭化物であるε炭化物の析出によって特徴づけられる。原子分解能STEM観察を行うことにより、200 ℃時効材においても、炭素クラスターとε炭化物が共存することが判明した。炭素クラスターが体心正方晶構造を有することが明らかとなり、炭素のZener-orderingが進行することで、炭素クラスターが生じることが判明した。また、安定相であるθ炭化物とε炭化物の相関についても、その場加熱TEM法および原子分解能STEM法を用いることで解析を行い、ε炭化物がθ炭化物の前駆体として寄与することが明らかとなった。本結果の詳細については、Acta Materialia誌、252巻 118919号に公開している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた50 ℃で時効処理を行った低炭素鋼中の炭素クラスターの解析に加えて、産業的に重要な200 ℃時効材中の炭素クラスターの研究にも着手している。炭素クラスターは、50 ℃のみでなく、200 ℃時効材においても、炭化物の分散状態に影響を及ぼすことが判明している。また、炭素クラスターが準安定炭化物へ遷移する際に、c軸方向へ10%のひずみを有した構造を有することも判明している。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、炭素クラスターが準安定炭化物へ遷移する際に、c軸方向へ10%のひずみを有した構造を有することが判明している。これは、炭素クラスター中において、炭素が特定のサイトを占有することがエネルギー的に安定であることを示唆している。今後は、炭素クラスター中の炭素の占有位置を理解することを目指している。
|