本研究の目的は、「カイコ精巣をモデルとした幹細胞維持と配偶子形成に関与する新奇遺伝子の解析」を通した、鱗翅目昆虫だけが獲得した特殊な精子形成機構の解明である。そこで本研究は、NGS解析を用いて幹細胞維持機構と二型精子形成に関与する新奇遺伝子(鱗翅目昆虫のみに保存された機能未知遺伝子)を探索したのちに、ゲノム編集やin silico解析を用いてその機能を明らかにすることを目的としている。 本研究は、以下の3つの項目に分けて進められた。項目1:幹細胞維持機構の解明、項目2:二型精子の運命決定機構の解明、項目3:改良ノックイン法の開発。本年度は、昨年度の研究結果を踏まえ、以下の研究を行った。 項目1、2:昨年度に実施したRNA-seq解析を再解析し、論文として発表した。 項目1、2:本年度は、昨年度に見出した、遺伝子ノックアウトによって有核精子の核の局在の異常を引き起こす遺伝子の機能解析に取り組んだ。その結果、この遺伝子のノックアウトホモ個体は、オス・メスともに稔性の低下が確認された。さらに、オスの精子に着目して解析を進めたところ、無核精子は機能的には正常であることがわかった。そのため、この遺伝子は、二型精子のうちの有核精子の正常な形成に関与している遺伝子であることが示唆された。 本研究で着目した新奇遺伝子は、これまでの既知遺伝子に由来する情報の延長線上では機能解明の糸口さえ見出せていなかった遺伝子であった。本研究では、Dry解析による絞り込みとWet解析による検証の結果、研究開始当初に想定していた配偶子形成に関与する遺伝子の存在を明らかにすることができた。
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