研究課題/領域番号 |
21J21739
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
原田 直幸 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
キーワード | 三重項状態 / フォトン・アップコンバージョン / ナフタレン誘導体 / 紫外発光体 |
研究実績の概要 |
三重項-三重項消滅(TTA)に基づくフォトン・アップコンバージョン(TTA-UC)は長波長の光をより短波長な光へ変換する方法論であり、太陽光程度(mW/cm2)の弱い光を利用することができるため、光触媒や太陽光電池の光変換効率の向上に関する応用が期待されている。 TTA-UCは三重項増感剤であるドナーと発光体であるアクセプターの2種類の分子によって達成される。特に、発光体であるアクセプターは最終的なTTA-UC効率や効率良くTTAを起こすために必要な励起光強度(しきい励起光強度)の大きさを決める役割を持つ。これまでに申請者らはナフタレン誘導体による新しいアクセプター分子を開発し、可視光から紫外光への高効率なTTA-UCを達成している。可視-紫外TTA-UCは人工光合成や水素製造に有用であり、太陽光程度の低励起光強度で利用可能な材料、特にフィルムや完全固体化材料の開発が望まれている。 本年度は、開発したTTA-UC色素に基づいて高効率かつ低いしきい励起光強度を有するフィルム系材料の開発を試みた。TTA-UC色素を分散させたものを含むフィルムを作製し、アップコンバージョン測定を行ったところ、太陽光強度ほどの低いしきい励起光強度が得られることが分かった。また、上記の材料を研究する過程で波長変換幅の大きな系と重金属フリーな系の開発も行った。波長変換幅はドナーの性質が重要であり、上の材料は青色光(波長445 nm)による励起が必要であった。申請者らはペロブスカイトナノ粒子をドナーとして利用することで、緑色光(波長515 nm)でもアップコンバージョンが可能な材料を作製し、波長変換幅の拡大を達成した。また、これまでに用いてきた重金属を含むドナーの代わりに従来のものと同等の光学特性を有するクマリン誘導体を用いることで、高効率かつ重金属フリーなTTA-UC材料の作製に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は太陽光程度の低いしきい励起光強度を示すTTA-UC材料を得ることに成功した。また、ドナーとしてペロブスカイトナノ粒子を組み合わせることによって、従来の青色光よりも長波長の緑色光を光源としてアップコンバージョン可能な材料の開発を達成した。さらに、イリジウムやカドミウムのような重金属を含まない有機色素をドナーとして用いることで、これまでよりも低コストでありながら高効率なアップコンバージョン発光を示す材料の作製にも成功した。本研究目的は弱い励起光を用いて駆動可能かつ高い波長変換効率を有する分子システムの開発であり、本年度の結果はその目的の達成とその先にある材料の応用化へ繋がるものであることから、おおむね順調に発展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに行ったTTA-UC材料の開発において、可視光から紫外光への高いアップコンバージョン効率と低いしきい励起光強度を達成した。一方で、TTA-UCの実用化には完全固体化が重要になると考えられる。そのような材料を作製するためには、固体中でドナーとアクセプターの相分離を防がなければならず、今後の研究ではそのための戦略を考えて試していく。また、引き続きしきい励起光強度の低いTTA-UC材料(色素およびデバイス設計)の研究を行いつつ、量子化学計算に基づく分子設計を行うことで、得られた分子発光特性に対する理解を深め、色素中の励起状態や三重項エネルギーに関する調査を試みる。
|