研究課題
当該年度では、九州大学の球状トカマク実験装置QUESTにおいて高速試料搬送装置(FESTA)を用い、室温でニラコ社に提供されたタングステン試料(φ60 mm、厚み0.5 mm)を長時間水素プラズマに約910秒曝露して実験を3回連続に実施した。各放電の間隔は粒子放出に十分な70分とした。試料表面の水素放出束が増加していることが観測され、粒子放出特性の計測は成功したと考えられる。一方、粒子放出挙動を解明し、プラズマ放電中タングステン表面状態を表す表面障壁ECを評価するために、捕獲・脱捕獲を組み込んだ水素拡散・表面再結合モデル―二層モデルを構築した。モデル計算で表面障壁を評価し、プラズマ曝露でタングステン内に捕捉された水素原子の増加につれて、溶解水素の数が増加になることが判った。その結果、タングステン試料における水素リサイクリングが活発になり、実験結果と一致することになる。プラズマ対向壁の表面状態とリサイクリングに対する水素とヘリウム(He)の複合効果を調べるために、FESTAを用いてHe照射したタングステン試料を前述と同様な放電条件のQUESTプラズマに曝露し、水素・Heリサイクリングを直接計測した。ヘリウム照射有無の実験結果を比較することにより、Heの存在で放電中の水素リサイクリングが増加になることが判り、Heリサイクリングが連続水素プラズマの曝露により減少することが観測された。以前から提唱した水素バリアモデルのより、試料内部のHeの存在で水素原子が大量に試料内部に溶解することになり、水素リサイクリングが増加することになると推測している。一方、Heリサイクリングは連続の放電により減ることが観測されたため、タングステン試料内に弱く捕捉されているHe原子が水素の侵入により減少になるのを予測する。これから、物理過程を解明するために、モデルを再構築する予定となる。
2: おおむね順調に進展している
前年度の実験では、計画の通り、高速試料搬送装置(FESTA)を用い、QUEST水素プラズマに曝露したタングステン試料からの水素・ヘリウムリサイクリングを直接計測することに成功した。水素リサイクリングと関連している粒子放出挙動の素過程を考慮しつつ、二層モデルを提唱して構築した。プラズマ放電開始から計測終了まで、全時間にわたってモデル計算を行った。その結果、プラズマ曝露を繰り返すことにより、試料内に捕捉水素原子が増加し、水素リサイクリングが活発になることが判った。また、実機プラズマ放電中のタングステン試料表面状態を表面障壁で評価した。昇温脱離実験結果をモデル計算で予測し、今回重視されている低温部のデータが再現できるようになり、モデルの妥当性を検証できた。この結果からタングステン試料のプラズマ対向壁を室温程度の低温で使用した場合、水素リサイクリングが放電履歴に依存することを想定させる。一方、ヘリウムの事前照射により、タングステン試料からの水素リサイクリングが増加になり、水素プラズマの連続曝露実験でヘリウムリサイクリングが減少することが観測された。この結果は、実機プラズマ放電の時、プラズマ対向壁の表面状態が変わり、水素・ヘリウムリサイクリングが変化する可能性を示している。実機実験でプラズマしばしば観測されるプラズマ生成時の再現性の悪さに関係している可能性もあると推測する。今後もFESTAを用い、試料からの水素リサイクリングの定量化を進めることで、今後の核融合研究に貢献する。
実験では、タングステン試料、ヘリウム照射後のタングステン試料、再堆積層付きのステンレス316L試料はそれぞれFESTAを用いてQUESTプラズマに曝露し実験を行った。各試料をQUESTプラズマに曝露する前後の試料表面状態を走査電子顕微鏡(SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)などで確認して比較する。TDS装置を用い、プラズマ曝露による試料内に残留している水素粒子を評価する。前年度中成功に計測した水素リサイクリングと合わせて実機での水素の反射率を定量に評価するとともに、水素リサイクリングの物理過程を解明する。この結果を以前プラズマ曝露したステンレス316L試料と比較し、材料、堆積層の有無、ヘリウム照射の有無による水素・ヘリウムリサイクリング及び反射率の違いを定量的に評価する。現在、FESTA装置は温度制御機能がないため、核融合炉の壁温近傍(723 K~773 K)及びQUEST高温壁温度(473 K~673 K)の実験環境を模擬するためにない。473 Kの壁温では転移ループに捕捉された水素や He(脱離温度<500K)が主となることが予想されるため、試料の温度制御は重要となる。また、室温でもヘリウムバブルが形成されることが観測されたため、今後、FESTAを温度制御ができるように改造する予定となる。上述の結果は実機プラズマで得られる初めての定量実験結果であるため、核融合研究炉に対する貢献が大きいと考える。
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Fusion Engineering and Design
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