研究課題
本研究では,高強度レーザーを薄膜に照射することで発生する電荷分離電場でイオン加速を行う,レーザー駆動イオン加速手法を用いて,新機軸の重イオン加速器を実現することを目的としている。本年度は,イオンビームの品質を決定するイオン加速メカニズムの解明にむけ,レーザープラズマシミュレーション及びMeV級イオンビーム特性計測実験等を行った。レーザー駆動イオン加速機構によって発生するイオンビームは,一般的な加速器と比較して低エミッタンス性(エミッタンス:ビームを構成する粒子の運動方向の不均一性),短パルス性に優れていると言われている。一方で,レーザー加速器の開発を行っていくうえで,レーザーの照射条件(薄膜ターゲットやレーザー集光の条件など)に対して,発生するイオンビームの品質(エミッタンスや電流値など)がどのような相関を持つかを把握することは極めて重要であるが,それらは十分に理解されていない。そこで本研究では,レーザー照射条件とビーム特性の持つ相関を評価するために,Particle in cellコードを用いてレーザー照射パラメータを最適化するのためのシミュレーションを行い,MeV級のイオン加速においてビーム輝度に大きな変化をもたらすパラメータを発見した。加えて,これらのシミュレーション結果を実験的に明らかにするために,レーザー加速イオンビームのビーム特性計測実験を行った。これらの成果は,IPAC’22(ポスター)及び日本加速器学会(口頭)において報告した。また,レーザー加速イオンビームの極めて小さな横方向エミッタンスを高精度に計測するためには,検出器にマイクロメートル級の高い空間分解能が必要であることがシミュレーションによって明らかになった。そのため,ラジオクロミックフィルムと呼ばれるフィルム型の検出器を用い,マイクロメートル級の空間分解能と高い線量定量性をもつ計測手法を開発した。
2: おおむね順調に進展している
昨年度の計画では,炭素ビーム輸送のためのビームラインの移管が当年度初旬に行われることを予定していたが,ビームライン移管の時期が変更され本年度末に移管されたため,レーザー加速におけるビーム生成メカニズムを解明するためのプラズマシミュレーション,及びビーム特性計測実験を行うことに注力した。その結果,高品質なイオンビームを生成するためのレーザー照射条件は最適化され,国際学会を含む2件の学会にて報告し,本分野での周知を行った。また,MeV級のレーザー加速イオンビームのエミッタンスを高精度に計測するための手法を開発し,計測実験を行うことを達成し,レーザー加速ビームの特性について実験的な知見も得ている。これらの成果に関しては,次年度初旬に論文投稿予定である。炭素イオンを効率的に発生させるための手法に関しても実験を行い,第二著者として論文投稿,特許出願を行っている。上記のように,計画に一部変更はあったものの,当年度の計画をおおむね達成しているため,順調に進展している。
今後の研究では,レーザー駆動イオン加速機構によって発生する炭素イオンビームの特性を明らかにするため,レーザー加速イオンビーム輸送ラインの立ち上げ,ビーム特性計測手法の開発を行うことで,炭素イオン輸送実験,及びビーム特性実験に挑戦する。これまでに高品質なイオンビームを発生させるための,レーザー照射条件の最適化やエミッタンス計測実験などを行ってきたが,まず,これらの結果を基にビーム輸送シミュレーションを行うことで,イオンビームの輸送効率や得られるビーム品質について理論的に解析する。次に,イオンビーム輸送を実験的に行い,ビーム輸送後の炭素イオンビームのエミッタンス特性,電流量などを始めとする,ビームダイナミクスに関して研究を進める。レーザー駆動イオン加速機構の重イオンビームの輸送実験はこれまでに実施された例のない挑戦的研究であり,本研究によって多くの知見が得られることが期待される。
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