研究課題/領域番号 |
22J00797
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
米田 大樹 九州大学, 芸術工学研究院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 折紙工学 / 生物模倣 / うすい構造 / 脱皮 / 幾何学 / 力学 / 模型実験 / 有限要素法解析 |
研究実績の概要 |
うすい構造は、体積のある材料には真似できないユニークな機能を作ることができ、折紙工学をはじめ多くの先行研究がある。自然界においても、生物は進化の過程で多くのうすい構造の機能を獲得している。ただし多くのうすい構造は、その機能が広く知られていても、背後にある幾何学と力学は密接に関係しており複雑で、未解明な部分が多い。そのため、機能を発現する構造を設計するためには、基本構造と動きの仕組みを定量的に明らかにすることが重要である。 その足掛りとなるモデルケースとして、円柱体型の生物であるヘビとイモムシの脱皮機能に注目した。両者は生物学的な分類は全く異なるが、細長い体型であり、かつ脱皮によって成長するという共通の機能を獲得している。しかしながら、脱皮の過程には大きな違いがあり、ヘビは表皮を頭側から反転させ脱ぐのに対し、イモムシは座屈によりしわを形成させ尾側へたたみながら脱ぐ。この表皮の駆動の違いが生じる原因を明らかにすることは、一般的な円筒表面構造の剥離を最適化することが可能になる点で意義がある。構造を剛体円柱と弾性円筒膜としてモデル化し、物理模型実験と数値解析を実施した。 物理実験においては、硬化シリコーンによって、直径と厚さを制御した表皮模型を形成し、形状パラメータを変化させたときの、反転と座屈駆動に必要な力を測定した。その結果、一部の形状パラメータにおいて、表皮と体の直径の差に依存して、脱皮途中の反転と座屈の駆動優位性が切り替わることが確認された。ただし、現状の模型では接触摩擦の影響が考慮されていないため、摩擦の定量化が今後の課題となっている。 数値解析においては、有限要素法解析ソフトを用いて、反転脱皮に関しておおむね実験と同様の力学駆動を再現できた。このモデルによって、実験が困難なパラメータ領域まで計算し、今後理論的な考察も組み合わせて、脱皮のメカニズムを明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生物が獲得したうすい構造のモデルケースとして、円柱体型の生物の脱皮機能を取り上げた。 物理実験においては、いくつかの材料候補で模型を試作し、力学実験系を計画に沿って構築した。表皮の模型として、繊維紙、樹脂紙、樹脂フィルム、シリコーン樹脂などで形成を模索し、注目する脱皮の機能を再現する実験において硬化シリコーンによる形成が最適であった。硬化シリコーンはポリシロキサンを主成分とし、2液を混合して硬化するエラストマーである。目的の直径、厚さの形状パラメータをもつ表皮模型を形成するために、鋳型形成法や、3Dプリンター出力、バームクーヘンのように芯を回転させて塗り重ねる方法などを検討し、最終的に円柱表面に重力によってかけ流す方法を採用した。この方法では厚さが重力方向に不均一になる問題があったが、上下ひっくり返して2層塗ることで厚さ均一な表皮模型を形成することができた。また体の模型としては、円柱半径を効率良く変化させるため、当初検討していた金属等の丸パイプを変更して、フィルムロールを採用した。そしてリニアガイドとロードセルにより、脱皮変位を制御した状態で表皮に発生する力を測定する実験系を構築した。 並行して実施した有限要素法による数値解析においては、ヘビの表皮が反転する脱皮進行を再現することができ、実験の力学測定とカメラ計測結果と比較して検討することができた。ただしイモムシの座屈を伴う脱皮進行の計算は現在も調整中である。計算が比較的難しい座屈のシミュレーションに加えて、摩擦効果の計算が予想したよりも強固に関与することが新たにわかってきたため、再度計算を組み込んでモデリングを調整している。 また当初の計画にはなかったが、フィールドワークなどにおいて実際に生物の脱皮観察をする機会ができた。観察や撮影のノウハウ、脱皮機能についての知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に注目した円柱体型生物の脱皮機能について、イモムシの座屈脱皮の数値計算モデリングを摩擦の硬化も考慮して実施し、幾何学理論も踏まえて考察する。並行して、別の生物のうすい構造のモデルケースについても、初年度と同様に物理模型の作成と数値解析モデリングを進める。 これら研究計画に大きな変更はないが、動画や標本資料だけではなく、実際に動いている生物のうすい構造観察を、今後はより積極的に取り入れる。初年度には、簡易的なフィールドワークを実施しただけでも、当初想定できなかった駆動メカニズムや重要な形状パラメータを発見することができたためである。自然生物を対象にするため観察の場所や時間のコントロールは困難であるが、動物園などとも協力してより定量的な観測の実施を検討している。
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