DOCK2は免疫細胞特異的なRac活性化因子であり、免疫細胞の遊走や活性化に重要な役割を演じている。近年、日本人集団においてDOCK2の遺伝子多型がCOVID-19の重症化に寄与することが報告されたが、そのメカニズムを含めDOCK2の生体機能には依然不明な点が多い。申請者は、DOCK2を欠損したマウスがアレルギー性気道炎症を自然発症し、T細胞が肺血管周囲にクラスターを形成していることを見出した。アレルギー病態に関与するST2+CD4+T細胞が多く含まれることから、この構造がアレルギー病原性T細胞の分化・維持・機能発現のために必要ではないかと考え、PNAT (Pulmonary niche for allergic T cells)と名付けた。驚くべきことに、PNATは生後1週間から10日の新生児期に形成される。近年、新生児期におけるイベントがその後の疾患感受性に影響を与えることが多くの疫学研究で示され、注目を集めている。メカニズムとして、ライフステージ早期特有の免疫反応の状況が将来の免疫疾患に繋がる可能性が示唆されているが、将来のアレルギー感受性に与える影響についての知見は乏しい。そこで本研究では、新生児期におけるPNATに着目し、DOCK2を介した形成機構の解明を試みた。 Single-cell RNA-seq解析およびELISAの結果から、DOCK2欠損マウスでは生後すぐの一過性の炎症メディエーターの増加に伴って血管周囲へ浸潤したT細胞がcDC2と盛んに相互作用することでPNATという特殊な炎症の場が形成されることが示唆された。本研究で、DOCK2が生後すぐの過剰な炎症に起因するPNATの形成を抑制していることを明らかにしたと同時に、DOCK2欠損マウスが「新生児期肺の免疫応答がその後のアレルギー感受性に与える影響」について検証する有用なツールとなり得ることが示された。
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